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第14話 未知との遭遇 2
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「綾木・・・たすけて」
なんだ、これ。体が熱くて、頭の中が痺れる。下腹部が熱を持って、溶け出したように前からも後ろからもどんどん溢れてくる。
そういえば、そろそろ発情期だったか・・・
と思ったところで今更遅い。
目の前のαに犯して掻き回して抱き潰して欲しいと、それだけしか考えられない獣になってしまったようだ。
「待って、茜。抑制剤・・・っ」
興醒めする綾木の言葉を断つように唇を塞ぎ、咥内の粘膜を舌で余すところなく貪りたくなる。
知らない。発情期にαが傍にいるというだけで、こんなにも欲望が抑えられなくなるなんて、俺は知らなかった。
お互いの唾液が同じ濃度で混ざり合う頃、無抵抗だった綾木の瞳の色が変わった気がした。
トップスの中に滑り込み背中を撫でた綾木の手が、一瞬躊躇し背骨をなぞって尾骶骨まで降りてくる。
「んん・・・っ」
もっと、もっと下まで・・・
蜜を垂らしヒクつくそこに触れて欲しくて腰を浮かせる。
「茜、マズイって。このままじゃ、お前を」
「いいからぁっ、したいから・・・あやきと」
嘘だ。
綾木が欲しいんじゃない。
俺の身体はαを欲しがっている。
あんなに疎んでいたはずの獰猛で危険なαの狂気に、征服されたくて堪らなくなっている。
「嘘つき。茜は残酷だ。俺がどんな想いでここにいんのか・・・お前も同じ想い、味わえばいいのに」
腰に巻きついた綾木の腕にグッと力が入る。骨が軋みそうな圧迫感。それすらも快感だと体は悦ぶ。
膨らみ硬くなった中心部が布越しに重なって、俺のより大きいであろう綾木のそれが ぐっぐっ と押し付けられ、期待だけで達してしまいそうになる。
欲しい。欲しい、奥まで。
未だかつて誰にも触られたことの無いところをこじ開けて。綾木の届く限りの一番深くに注いで欲しい、αの精子を。
こんなに苦しく切ないほどの性欲を感じるのは、発情期であっても初めてだ。
どうして・・・
「茜は、運命って信じるか?」
「う・・・ん、めい」
「俺は、αの茜が好きだった。Ωだと知った後も、気持ちは変わらなかった」
自分のとは違う速さの綾木の鼓動が、重なった胸を伝って体に直接響いてくる。
「もう、茜に逢えないと思ってた。だけど、俺はずっとどこかで信じてたんだ、運命なら必ずもう一度逢えるって」
三十路男が『運命』だなんてバカバカしい。高校卒業から何年経ったと思ってるんだ。
その間もずっと、こいつは俺に逢いたいと思っていたのだろうか。
ろくに話したことも無い俺との『運命』を、純粋に信じて来たと・・・?
αとΩには、魂で惹かれ合う『運命の番 』といわれる相手が存在するらしい。しかし、絶対的に数の違いがあるαとΩにそれぞれ運命の番が存在するとなると、Ωには複数の運命の相手がいる事になる。そんなのは『運命』なんて言えないんじゃないだろうか。
俺はそんなものは信じない。
が、弟の葵はそれに出逢ったと言っていた。ネットアイドルのえれふぁんもそんな事を・・・
まさか、俺の運命の番は・・・綾木?
そう考えれば辻褄が合わないことも無い。
発情期間外の突然のヒートは、綾木と再会してからの出来事だった。
そして今、あの時以上の性欲に支配されている身体。そもそも こんなにも誰かを欲しいと思ったのは初めてだ。
綾木と再会してからの俺は、はっきり言って変だ。
あれだけ女性と恋愛したいと思っていたのに、今この瞬間に欲しいと思うのは綾木だけだ。
どうしてだ。答えがあるなら教えて欲しい。
「綾木と、俺は・・・運命の番・・・?」
「茜がそう思うなら、・・・きっとそうだよ」
そう、なのか?
こんな気持ちになるのも、こんなにも欲望が抑えられなくなるのも、そのせいなのだろうか。
「運命の番なら、俺たちが交わるのは至極当然の事だろう? 綾木、俺を抱いて欲しい」
早く、早く、俺の中へ来て。
尾骶骨を擽る綾木の手を後ろ手に掴んで、濡れそぼった窄まりへと導く。
「ぅ・・・」
ぬるついた襞を綾木の指先で撫でられ、応えるかのように反射的にヒクつくそこが、彼の指に吸い付こうとしているのが分かる。
「茜・・・本当に、好きなんだ。ごめんな」
なぜ謝る。俺たちが運命だというのなら、こうなることに綾木が罪悪感など抱く必要は無いのに。おかしな奴だ。
・・・ああそうか。
俺が綾木に恋をしていない、とわかっているからこいつは・・・
「俺もきっと綾木を好きになる。そういう運命なんだろう? だったら躊躇うな」
もう一度唇を重ねて、綾木を強く抱きしめる。
『好き』という感情がいまいち分からない。けれど、αの綾木を欲しい、と思う気持ちに嘘はない。
「それとも、俺が相手じゃ不満か?」
「なわけないだろ!お前がαのフリしてる頃から、何百回もこうなる事を妄想してたっつーの!」
言われて少しゾッとしたが、喜びが上回って体は更に熱を上げる。
「好きだ、茜。・・・抱くよ?」
さっさとしろ。もう限界だ。
視界が反転して天井を見上げると、綾木の余裕の無い顔が迫って来る。
お互いに噛み付き舌を合わせると、飲まれてしまいそうなほど吸われ苦しさに嘔吐きそうになる。そんな俺にお構い無しの綾木に咥内を蹂躙されながら、服の上から胸をまさぐられ、突起に摩擦を感じる度に少し、また少し蜜が後ろから溢れる。
全て脱がされ前を執拗に責められ、「足りない」と言うと、ようやく指一本がゆっくりと後ろに埋められてぞわりと全身が粟立ち、勢いの無い白濁が腹に滴る。
怖い、自分の身体がどうなってしまうのか。
それでも欲しい。指なんかじゃ、この熱は治まらない。
下着を下げ顕になった綾木の中心部に、俺は釘付けになる。
αのペニスとは、これ程までに猛々しいものだったのか・・・!俺は・・・受け止めきれるのだろうか・・・
「は・・・初めて、だから・・・、不甲斐ないかも、しれない・・・」
この歳で童貞処女は恥ずかしいが、言っておかなければ。そんな猛獣まがいに責め立てられて正気でいられる気がしない。
「俺もそう。不甲斐ないかもだけど、ガッカリしないで」
「え」
俺もそう、って・・・綾木も童貞だと言うのか!? αのくせに、この歳まで!? ということは未経験同士だぞ!?
そんなぁ。俺のこの持て余した性欲を綾木は満たしてくれるんだろうか・・・。
窄まりにピタリと猛獣の先端をあてられ、押し広げられ少しずつ埋められる。息が、出来ない。痛みと圧迫感で視界がチカチカと歪む。
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