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第15話 未知との遭遇 3
「・・・っ、・・・、」
「あかね・・・っ、俺を、受け入れて」
「・・・りっ」
無理っっ!
いくらΩが濡れるからといって、処女にその大きさがすんなり受け入れられると思っているのか!このクソ童貞め!
αの生殖器がそれなりに大きいことは、葵のを見た時に知っていた。けれど、勃起状態のものにこんなにも硬度と質量があるなんて・・・、これは暴力と言っても過言では無い。
それを受け入れる為にΩは性交時、ある程度の大きさに拡がるはずなのに。
全ては知識だけだ。実践がこんなにも苦痛を伴う行為だなんて、経験しなければ分からなかったこと。
つい数秒前欲しくて堪らなかったものが、不快にすら思えてくる。
「ぅ・・・」
「ごめん、茜。つらい?」
見ればわかるだろう!その両目は機能していないのか!?
けれど、これを求めたのは俺自身だ。何が何でも全部受け入れてみせる・・・!
ガタガタと震える体は嫌でも力が入り、汗ばむ手の平でシーツを手繰る。
仰向けの俺の腰を掴んだ綾木に脇腹を摩られフッ と息を吐いたと同時に、少しだけ押し挿ってくる猛獣に、 ビクン と下半身が跳ねた。
きゅうっ と狭くなった内壁が綾木の先端の膨らみを包んで、中が擽られているような、何とも言えないもどかしさが下腹部を襲う。
「は・・・ぁ、ぁっ」
「ここ、気持ちイイ?」
浅い部分を解すようにゆっくりと短く行き来され、痛みの中に見つけた僅かな快感が次第に大きくなってゆく。
「・・・んぅ、ん・・・っ」
「茜の声、甘くなった」
自分の反応を逐一見られていることが恥ずかしくなり、俺は咄嗟に手の甲で口を塞ぎ、もう片方の腕で顔を隠す。
「隠しても無駄。こっちは正直だから」
「んんっ!? んぅ──・・・っ」
三本の指で軽く潰すように亀頭を摘まれて揉まれ、せり上がってくる白濁が びゅっ と吹き出す。
胸元を汚し、顔を覆った腕にまで飛び散ったそれを、綾木が ペロリ と舌で掬い飲み込む。
「スゲ・・・茜ってこんな、味なんだ・・・」
「あ・・・・・・ぇ?」
腕の隙間から見える綾木の顔が、瞳が、いつもと違う。いや、違わないのかもしれない、けれどそこにいるのは俺が知ってる綾木ではなかった。
全身に悪寒が走り、じわじわと汗が出る。イッたばかりだというのに、もう触られていないのに、またすぐに射精感に襲われる。
綾木から発せられている この甘い香り。これのせいだ。これが、αのフェロモン・・・?
「あや・・・あ、ぁっ」
奥に向かい進んで来る猛獣を、身体は自然に受け入れようとする。さっきまでとは何かが違う。
「は・・・、あぅ・・・っ」
腹の奥に ズン と重い衝撃。
入った・・・。奥まで。俺の中に・・・綾木が。
それだけしか思考は働かず、内壁を擦り押し上げられる感覚に、次第に速度を上げる綾木に、漂う甘い彼の香りに、快感で満たされるだけの身体。
「茜・・・っ、あか、ね・・・」
「ひぁ・・・っ、あ、あ゙っっ」
何度も名前を呼ばれ、悦に浸る間もなく責め立てられ、壊れた蛇口のように白濁が漏れる。
荒らげた息遣いが首元にかかる。
本能で感じた。綾木に噛まれるんだ、と。
けれど仰向けになっていることで項を差し出せず、綾木の歯は僧帽筋の上にくい込む。
「んぁ・・・っ、あ──・・・ぁ」
皮膚を薄く突き破られ、痛みを超えて熱を持つ首元。
遠くなりそうな意識は、込み上げる快楽へと何度も引き戻される。
それは綾木が達するまで繰り返され、彼の白濁が腹上に吐き出された頃、指一本動かすことも困難なほどの快感と疲労から逃れるように、ようやく俺は目を閉じた。
たっぷりと時間をかけて瞼を上げると、白の天井と薄いグレーの壁紙。
リビングの床で落ちてしまった俺を、綾木がベッドまで運んでくれたのだと気付く。
「茜、・・・大丈夫か?」
耳の傍で綾木の声がして、視界の端に綾木の心配しうな顔が映る。
「・・・いたのか。俺は大丈夫だ。そんな事より、地べたに座るその癖を直せ。αらしくし・・・ぅえほっ、ケホッ」
声が掠れて咳き込む俺。
「水、飲む?」
「ん。・・・んん?」
起き上がろうとしたが、腰が痛くて体に力が入らない。尻も痛いし脚も痛い。どうしたことだ。
「引きこもりの運動不足が祟ったんじゃねーの?あれくらいで情けないな~茜は」
「あれくらい、だと!? 初体験であんなにイかされて喘がされて、快感で何度も気を失いそうになった!死ぬかと思ったんだぞ!それをぅぷっ」
恨み言を綾木の唇で塞がれ、咥内に流れ込んで来た水と一緒に無理矢理飲み込まされる。
「要するにめちゃくちゃ気持ち良かった、って事だろ? トロトロになってる茜、可愛くて堪んなかった」
満足そうに笑顔になる綾木。
「ち、ちょっ、調子に乗るなぁっっ!」
俺が、とろとろで、可愛いかったって!?
とろとろ、って。とろとろ、・・・って、ああもう、恥ずかしいっ!!
布団を頭上まで引き上げ、火が出そうなくらい熱くなった顔を隠す。
「調子に乗らせろって。俺のこと好きになるんだろ?」
上に乗ってきた綾木に掛け布団ごと ぎゅっ と包まれて、昨晩の彼の荒々しさと甘い香りを思い出し、治まったはずの欲がまた疼き出す。
それもそのはず、発情期間中のΩは、食欲や睡眠欲よりも性欲に身体が支配されてしまうのだ。
昨晩から発情期に入って、落ち着くのは約一週間後・・・。
初めてだ。ひとりきりじゃない発情期を過ごすのは。
たぶんきっと、俺は綾木を好きになる。
彼に溺れる予感がする。
何もかもが初めてで、未知の世界。けれど『運命』とは、そういうものなのだろう。
きっと・・・。
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