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第31話 奪われたΩ 2

******** 藤の舌が強引に絡み付き、あまりの快感に身体中がゾクゾクと粟立つ。 ガラスの向こうで綾木が見ているのに、抵抗すらできない。 この状況は何だ。 俺は藤とは番えないとハッキリ言った。藤もそれに頷いてくれたのではなかったか? 『せめて最後に、使用人としてではなく茜様の運命として・・・お許しください』 そう言って藤が俺の手に口付けたのは、ついさっきの事だ。 そもそも綾木がこんな所にいるのは何故だ。何らかの理由で家に入れなかった、ということなのか・・・? それにこの窓は、素手で簡単には割れない防犯ガラス。たとえ割れたとしても、蜘蛛の巣状にヒビが入ったガラスの中に手を入れでもしたら無傷では済まない。 あえてガラスを割らせないように藤が脅したのは、俺では無く綾木に怪我をさせない為だろう? ラット化していなければ、藤は理性的で賢い男だ。 そうでなければ初めて会ったあの日に、豪さんに自分の手を縛ってくれと言うはずがない。翌朝、俺がそれを解いた時に襲わなかったはずがない。 しかし俺がヒートを起こせば、それはあっという間に覆えってしまう。 ここに来る前に念のため抑制剤を多めに服用して来たおかげで今のところ何とかヒートを起こさずにいるが、体は既に反応している。藤にこんな風にされていては、いつまで耐えられるのか わからない。 藤、お前は何を考えている・・・? 「ふ じ・・・、もぉ、や・・・」 「茜様は本当に強情ですね。恋人の前で私にいいようにされて こんなにも感じているというのに。まだ『やめろ』と仰るんですか?」 「う・・・」 俺は最低だ。綾木が好きで好きで堪らないのに、このまま藤のものになってしまえばどんなに楽だろう、と運命に寄り掛かりたくなっている。 どれだけ愛していても、綾木とは番になれない。 子を授かることもできない。 発情期には綾木以外のαも誘惑するフェロモンを垂れ流し、発情期でなくても容易にαの匂いにあてられて・・・それがずっと続いてゆくのだ。 きっとその度に綾木のことも苦しめる。 そんなのは、幸せと言えるのだろうか。 「あやき・・・」 すまない、俺は・・・ 幸せにはなれないかもしれないし、お前を幸せにしてやることもできないと思う。 それでも綾木と一緒にいたいんだ。 膝の力を抜いて藤の胸に寄り掛かり、後ろ手に彼の股間が届く位置まで体を下げる。 手のひらに感じた屹立を、ボトムスの上から力いっぱい握ると 「う゛っっ!」 と低く呻いた藤が腰を引いて、俺は解放される。 と同時に体を反転させ股間を抑える藤の脛を蹴り、 「い゛っっ!!」 と苦渋の表情を浮かべる彼に思いっきり足払いをかける。 ガクン と膝が折れ、床に這い蹲る藤。 「運命だろうが何だろうが、そんなの知ったことか!俺は綾木がいいと言っているだろ!しつこいぞ!」 俺は藤に言い捨てテラスへの出入口の鍵を開ける。 すぐに綾木が中へ入って来て、俺は息ができない程の強い腕の中に閉じ込められる。 「・・・なんて言っていいかもう、わかんねえ。でも無事でいてくれて、ありがとな」 綾木の腕は更に力を増し、骨が軋む。 おい、俺はまだ縛られたままなんだぞ。これじゃお前を抱き締め返せないじゃないか。 と言いたいのに苦しくて言えない。 「茜様・・・、あまりにじゃじゃ馬が過ぎますよ・・・」 「当然だ。俺は自分の身は自分で護る。愛する人も、自分で選ぶ」 「・・・そうですね」 フラフラになりながら立ち上がった藤が、スマホを耳にあてる。 「だそうです。旦那様」 えっ!? 父!? 『ふむ、残念だが・・・いい歳して引きこもりの茜がそこまで言うようになったのは、親として喜ぶべきなのかもしれないな。・・・次に帰国する時には恋人を紹介するよう伝えてくれ。ご苦労だったな、藤』 スピーカーに切り替えられたスマホから聞こえる父の声。「かしこまりました」と言って藤は通話を切る。 「どういうことだ。説明しろ」 俺は藤を睨む。 「申し訳ございません。一部始終はあちらのカメラを通して、旦那様がご覧になられておりました」 彼が指差す部屋の天井の隅、わかり易すぎるほど存在感のある監視カメラ。 嘘だろう・・・、父の趣味が悪すぎる。あれに気付かなかった俺もどうかしているが。 「旦那様は茜様のご意志が聞ければそれで良かったのですが、私が出過ぎた真似をしてしまいました。なにしろ運命である茜様の事です、少しばかり意地にもなってしまいます。どうかご無礼をお許しください。・・・とは言っても十分な罰を与えられてしまいましたが」 股間に手をあて青い顔をする藤。 「悪かった。幼い頃から身についた護身術が、つい」 がしかし、綾木の前で俺に手を出したのは重罪。その程度で済んで幸いだと思うがいいぞ、藤よ。 「実は、少し前より豪様には全てを話し・・・、今日もし綾木様が茜様と共に、または追われてここへいらっしゃった際にはこの部屋まで導いて頂くようお願いしました」 全て? 豪さんに? 何を? 「なんかおかしいなとは薄々思ってたけど・・・」 綾木はテラスの方を振り返る。視線を追って目を凝らすと、テラスの端にあるベンチから手を振っているのは 「豪さん!?」 とその隣には葵。ふたりも来ているのか。 「で、おっさん達にわざわざガキみたいなことまでさせて、茜の意志を聞いた上で、俺が手出しできない状況の中 縛ってキスまでするなんて、藤くんは何がしたかったのかな?」 綾木は引き攣ったような笑顔で藤に問う。 ネチネチとした物言いは嫉妬を含んでいるのが明確で、どこか嬉しくなってしまう俺。 「私たちは『』ですので、改めて茜様のご意志を確認したまでです。私の誘惑に負ける程度の想いならば、おふたりの関係など壊してしまおうかと」 「要は茜の気持ちを試したってことかな?」 「それもありますが、私の『』である茜様の想い人に意地悪のひとつもしてみたくなったんです」 「藤くん、いい性格してるわ」 わざと『運命』を強調する藤に、綾木の笑顔の奥の瞳は笑っていない。 2人の間にバチバチと火花が見えるのは気の所為だろうか。 「そんなことより藤、豪さんに話した全てとは何だ?」 「そんなこと!? ちょ、お前、俺以外に唾付けられたのが、そんなことで済むわけねえだろ!」 綾木はジャケットの袖で俺の口元をゴシゴシと擦る。 「だからあいつには罰を与えたではないか」 「うっ、それはそうだけど・・・俺とキスする時より気持ち良さそうな顔してんじゃねーよ!ダメージでかすぎて心バッキバキんなっただろ!」 「ふん、それで動けずにいたのか? αのくせに情けない。死ぬ気で奪い返せ」 「αの俺と藤くんを投げ飛ばしたり蹴り倒したりできるんだから、キスされる前に逃げるくらいできるだろぉ~?」 「うるさい。油断は誰にでもある」 嫉妬は少しばかり嬉しかったが こうなってくると面倒だな。まったく・・・藤には無理矢理にでも笑顔を向けるくせに、俺には怒るなんて理不尽だ。 「ふっ」 俺たちのやり取りを見て藤が笑いを零し「痴話喧嘩も程々に」と俺たちをソファに座らせ、温かい紅茶をローテーブルに2つ並べる。 「退屈な話ではありますが、お聞き頂けますか?」

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