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第49話 番外編 運命を訪ねて 2

あ~・・・ やっぱり莉央くんもそう思ったか・・・。 「はっ? えっ?」 「とととうりと、うちのかかかえでが?」 冷静な莉央くんと俺とは真逆に動揺しまくる茜と藤。 「だって、茜さんと藤は運命だったんだろ?その子供同士が運命である可能性は、遺伝子的にも低くないんじゃない?」 「俺もそう思ってた」 藤莉は藤にそっくりだし、楓は俺よりも茜によく似ている。運命なのに結ばれなかった二人のDNAが子供たちに受け継がれていたとしたら・・・ 「で、では、早速ですが、ふたりをっ、許嫁ということに」 「あ、ああっ、そうだな!藤莉は年頃だ。いつ誰と不埒な関係になってしまうかわからない。かっ、楓が成人するまでは、清い体でいてもらわなければっ」 「不埒!? うちの息子がそんな事をするはずがありません!楓様こそ手当り次第にツバをつけてしまわぬようにして頂かなければ!」 「何を言う!藤は散々遊んできたクズだと自分で言っていたではないか!藤莉がお前に似ないとも限らない。 それに引き換え俺と綾木は30歳まで未経験だったし、生涯お互いだけ・・・」 「それはそれでいかがなんでしょう!?30歳まで童貞だったなどと、世の女性達を軽くヒかせてしまう気もしないではないのですが!?」 再びぎゃあぎゃあと言い合いになる元運命達。 仲が良いんだか悪いんだか。 立ち上がり今にも取っ組み合いに発展しそうな茜と藤を見るに見兼ねた俺は 「あーもーうるせぇ!例え運命だとしても、それを選ぶかどうかはあの子たちの自由だろ」 言い放つと 「・・・ははっ、そうですよね。『運命だから』なんて通用しないαとΩがここには3人もいるんだから、考えるだけ無駄なのかも」 莉央くんは睨み合う茜と藤を見て笑い出した。 途端に大人しくなった元運命たちはそそくさとダイニングチェアに座り直す。 「・・・それも、そうか」 「綾木様と莉央の言う通りです。少し過保護になってしまいました。茜様、どうか無礼をお許しください」 「いや。俺も大人げ無かった。アラフォーだというのにいつまでも坊ちゃん気分が抜けず・・・申し訳ない」 そう。俺達の予想が当たっていようと外れていようと、『運命』を決めるのは子供達自身だ。 葵達のように導かれるままそれに従うのも、茜や俺のようにそれに逆らうのもきっと、誰かに決められるものじゃない。 藤たちの住む家から車で10分ほどかけて山道を走ると、麓の集落や田畑、海を一望できるリゾート施設へと辿り着く。 地元住民の生活圏を避けたこの場所は、敷地内に自然を利用したアスレチック遊具やハイキングコースがあり、普段都会で暮らす俺たちにとってみれば非日常を味わえる。 「すっご~い!このブランコも展望台も、中にあった滑り台もぜーんぶ木で できてる!なんかすごい!」 「ホントだな。でも今日はもう暗くなっちゃったから、明日遊ぼうな」 「はい!」 良かった。楓の機嫌も直ったみたいだ。 リビングを出て行った藤莉はそれからずっと自分の部屋に籠ったっきり顔を見せず、大泣きした楓にドア越しに謝るだけだった。 Ωの発情を理解していない楓は藤莉に嫌われてしまったと思い込み、車の中ではずっと無言のままだった。 αといってもやっぱりまだまだ子供だな。興味の先が変われば切り替えも早い。藤莉の体に何が起こったのかを知る年齢じゃないしなぁ。 「もし藤莉の発情が楓の無自覚のαフェロモンのせいで始まったとしたのなら、この先 番ができるまでヒートの苦しみに耐えなければならないな」 茜がボソリと呟く。 「・・・そうだな」 「まだ14だというのに、二人を会わせてしまったことで藤莉を苦しめてしまう事になった。もしも楓が藤莉と近い歳だったら、その苦しみは幾分か短くしてやれたかもしれない」 「どうだろうな」 楓と藤莉がお互いを想い合う保証も無ければ、どんな選択をするかもわからない。 「きっかけは楓かもしれないけど、これから先は誰かが口を出せることじゃねーよ。もし俺たちにできることがあるとしたら、子供たちが選ぶ未来を信じてやることだけだろ」 茜は「うん」と小さく頷いて笑った。 そして、出逢ってしまった楓と藤莉が再び出逢うのは5年後のこと。この時の『運命』が真実だったかどうかがわかるのは、さらにその5年後のこと。 その話はまた別の機会に・・・ 天然温泉と美味い料理を堪能し、はしゃぎ疲れた楓は早々に深い眠りにつく。 そうなればここからは大人の時間。 ベッドに楓を運んで戻ると、珍しく酒を飲み過ぎていた茜は畳の上で大の字になっていた。 40歳手前でも俺の奥さんは相変わらず綺麗で可愛い。けど年々行動がオジサン化して来ているのはちょっと悲しい。 「茜~、おーい」 仰向けで大股を開きむにゃむにゃと寝入りそうになっている茜を揺するけれど、「ううーん」とひとこと返って来るだけ。 移動中もあんなに寝てたくせに~。 楓が生まれてからは俺の相手は二の次で、もう何年も深刻な茜不足なんだぞ、こっちは! はだけた浴衣から覗く白く滑らかな肌は、まだ20代と言ってもおかしくない・・・って言っても20代の茜を知らねんだけど。 絶対に手に入ることが無いって諦めてた。ただ好きでいるだけで十分幸せだった。 αの自分が誰とも交わらず、ただ一人 茜を想って生きて行く事で、自尊心を満たしていただけかもしれない。一生をかけて、茜だけを愛していると証明したかった。誰に認められなくても、自分だけが納得できればそれで良かった。 こうして茜がここにいて、それだけじゃなくて・・・ 茜と出逢えたこと、番えたこと、家族を持てたこと。全部が奇跡みたいだと思うと、涙が出そうになる。 「茜~、めちゃくちゃ好き」 「んああ?うん~」 大の字になっている茜に覆い被さり抱きついて体ごと揺さぶると、煩わしそうに適当に答える可愛い可愛い俺の番。 オッサンになってもジジイになっても。どうせ俺だって同じだけ老いていくんだ。むしろいつまでも若さを保てるΩの茜より何倍ものスピードで老けて行く。 どんなに俺が醜くなろうと、茜は俺以外をもう愛することも出来ない。その事実に可哀想だと思いつつも、この愛しい男を死ぬまで縛り付けておけることに歓喜する俺は、こいつの言う通りムッツリで粘着質なんだと思う。 発情していない茜はフェロモンを漂わせていない。それなのに甘くて溶けそうなほどいい匂いがして、ただ抱きしめているだけなのに急激に元気になる俺の下半身。 「おいって~、寝るなよ。久しぶりの旅行でこっちはテンション上がってんだぞ~」 薄く開いた唇に自分のそれを重ねると、茜は「んん」と眉を顰めてきつく閉じ顔を背ける。 は!? ダンナさまのキスを無意識に拒むとはいい度胸じゃねーか!昼間だって藤とイチャコラしやがって。 その体が誰のものなのか、みっちり教え直してやんねーとな。 顎を掴んで背けた顔を引き寄せ噛み付くように口付ける。 「んぅ、痛・・・」 茜は 強く押さえつける俺の手を退けようとするが、酔っ払っているせいで力が入らず すぐに抵抗をやめる。 「ゃだ、あやき・・・。おれ、きょー・・・勃た、ない」 キスの合間、途切れ途切れに紡がれる言葉。 夕食と一緒に出された地酒が気に入ったと言って浴びるほど飲むからだろ。だからって、そんな潤んだ瞳で紅潮した肌を晒しておいて「できない」は言わせねーからな!

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