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一学期 第一章 新たなる生活
初めてその学校を目にした際、脳内に浮かんだ率直な気持ちは、本当にこれが学校なのだろうか、というものだった。
眼前にそびえ立つ重厚な門から始まり、ギギギ、と鉄が軋む音を辺りに響かせながら開いた門の先にあったのは、一面の緑とその先にあるヨーロッパ風の城を彷彿とさせる校舎だった。私立の金持ち校にも負けず劣らないほど豪華で、端から見れば誰もここが犯罪者たちが通う学校だとは思いもしないだろう。
『雉ヶ丘学園』
それがその学校の名前だ。何故わざわざこの国の未来を潰すような奴らの学校に、国鳥の名前をつけたのだろうか。もしかすれば、その名前に相応しい人物になるまで躾けるような、相当厳しい更生施設なのかもしれない。
ちなみに学校は女子と男子で分かれていて、女子の方は桜ヶ丘である。この国には正式な国花がないので、一般的によく国花と言われる桜をつけたのだろう。
そして俺は今、件の雉ヶ丘学園の理事長室にいる。
目の前に居るのはこの学園の理事長だと名乗った、佐藤芳和 。
厳つい顔の眉間には皺が深く刻む込まれていて、漆黒と呼んでいいほどの深い黒の中には、幾分かの白が混ざり込んで、その存在感が男の背負っているであろう重圧を感じさせる。体は余程鍛えているのか、スーツの上からでも分かるような体躯の良さがあり、いくら犯罪者といえども、簡単に倒せる相手ではないのが見て取れる。
見た目が厳格なこの男は中身まで厳格だった。
「藤原聖 君だね?」
「……」
馬鹿馬鹿しい。改めて確認する必要なんて無いはずだ。事前に集めているであろう個人データには、俺の個人情報がこれでもかと言うほど載っているだろうし。義務的なものなんだろうが、俺には煩わしいだけである。
無表情のまま何も喋らない俺に怪訝な顔をしつつ、理事長は話し始めた。
「君がここに連れてこられた理由は分かっているだろう。君の過去を調べさせて貰った。十四歳になるまでは途方もない数の人間を殺していたらしいな。依頼だなんだと」
「……」
無言の肯定。ここでは無言に徹すると決めた。単純に面倒臭い。それが理由だ。
「だが十四歳の誕生日からパタリと人殺しを止めている。そしてちょうど一年後、十五歳の誕生日に両親を殺している。何故だ?」
何を意図した質問なのかが分からない。分かっても答える気はないが。
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