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何を質問しても無言を貫き通す俺に答えを求めるのは諦めたのか、理事長は大きく息を吐いて、やれやれといったように頭を左右に振った。
「今聞いても何も答えてはくれなさそうだし、後々訊くよ。君は高校一年生だね。本当はSクラスなんだが、あそこは今一人しかいないし、君では危険だろう。だから君にはEクラスに入ってもらう。もし他の生徒に罪状を訊かれたら万引きと答えるんだ。いいね?」
その言葉に、俺は無言で頷いた。理事長の方は、俺が反応を示すとは思っていなかったらしく、俺を見る目が少し見開いたような気がした。
理事長の言っていた意味は殆ど分からなかったが、とりあえず俺の表向きの罪は万引きらしい。何によってクラス分けされているのかは分からないが、それは後々分かるだろう。クラスメイトに訊けば早い。
「それとAクラスの生徒には気をつけるように。弱い者を見ればすぐ襲い掛かってくるからな」
ぴく、と無意識に眉が動くのが自分でも分かった。俺が弱い者ということか。見た目は理事長の言う通り貧弱に見えるだろうが、武道は一通りこなしている。そこらの不良ならば一撃で沈めるくらいには、人体の急所も把握しているつもりだ。尤も、殺人的な強さかと訊かれたら、首を縦には振れないが。
ここで少しだけ、何故こんな学園が出来たか説明しておこう。
二十年ほど前、少年犯罪が激増したこの国は、再犯の防止と銘打って、この雉ヶ丘学園と桜ヶ丘学園を設立した。一度でも犯罪を犯した彼らを徹底的に監視するために。徹底的というからには、もちろん家には帰れない。学園側で用意されている寮に、犯罪者全員が高等部卒業まで住むことになる。
──そうだ。それを恐れていたのだ。俺は、この学園に入ることを恐れていた。
学園に入ってしまったら。否が応でも大勢の人間たちと衣食住を共にしないといけなくなってしまったら。
見境なく、この手を血に染めてしまうから。
理事長が立ち上がって、俺に付いて来るように言った。同じように俺もソファーから腰を上げる。だだっ広い学園の中の廊下を歩きながら、理事長は言った。
「君には今日から寮生活をしてもらう。二人一部屋だ。何、心配はない。君のルームメイトは君の情報を私にくれた人だ。同級生だし、気を遣う必要もない。精神が安定すれば殺人衝動だって治まるさ」
その呑気な考えに苛立ちが募る。理事長は勘違いをしている。俺は精神がおかしくなって殺人行動に及んでいるのではない。至極真っ当な精神の状態で、殺害という手段によって、快楽を得ているのだ。
まるで他の奴らがセックスをするように、俺は人や動物を殺す。やり方は違えど、得られるものは同じ。性的欲求を吐き出さずにいられる人間はそういないように思う。
まだつらつらと勘違いを並べている理事長を後ろから睨み付けながら、どうすれば今後ここでその欲求を吐き出せるかを考えていた。
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