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 ガチャリ、という音が耳に入り、急な物音に飛び起きた。 「!?」  寝室のドアが開いている。そこから一人の男子生徒が顔だけを覗かせて、此方を見ていた。黒い髪に中性的な顔立ちで、恐らく背は少し低め。ショートカットの女子と言われても信じてしまいそうな気がする。 「あ、ごめん。寝てた?」  そう言って中に入ってくる生徒。何者か分からない俺は、質問には答えず、無意識に身構える。 「いきなりごめんね。僕、同室の花咲圭佑(はなさきけいすけ)。これからよろしくね」  はなさき、という言葉に先ほど見たネームプレートを思い出す。なるほど、こいつが俺のことを調べて理事長に情報を与えた張本人らしい。  花咲がにっこり笑った。その純真な笑顔に、敵意はない。想像していた人物像を良い意味で裏切られ、俺は肩の力を抜いた。 「藤原聖。よろしく」  久方ぶりに他人に対して言葉を発したせいか、不愛想な言い方になってしまった。わざとではないのだが。  しかし、花咲は特に気を悪くした様子はなく、唐突に質問してきた。 「いきなりだけどご飯作れる?」 「は? いや……」  料理など一度もやったことがない。仮にやったとしても、刃物を使うと衝動はより強くなる。人に向けるのは我慢できたとしても、その衝動の矛先は材料に向いて、切り刻みすぎて原型を留めない何かになってしまうだろう。 「そっか。じゃあ僕ご飯作るから、藤原君は食器洗いやってね。共同生活の基本は作業分担だしね」 「わ、分かった」  有無を言わさぬ芯の通った言葉に、若干気圧されながら返事をする。犯罪者の学園に通っているだけあって、度胸は据わっているのだろうか。 「食堂もあるけど、栄養偏っちゃうから」 「いや、食堂に行く気はない」  そんな人の集まるところに行けば誰かを殺しかねない。折角罪を誤魔化しているのに、意味がなくなってしまう。  俺の答えで何かを悟ったのか、花咲は苦笑した。 「大変だね。藤原君も。衝動は自分では抑えられないよね」  そうか。こいつは俺の本当の罪状を知っているんだったな。 「……花咲は何で捕まったんだ?」  正直、俺の前にいるこの男が、何か犯罪を犯したとは思えない。 「不正アクセス、まあ俗にいうハッキングだよ。って言っても、僕がやったんじゃなくて、妹が面白半分でやったんだよね。たまたま貸してた僕のパソコン使って」  足跡残してはいお縄だよ、と花咲が笑った。それじゃあ冤罪じゃないか。 「じゃあ冤罪……」 「ううん。僕何度もハッキングしてるもん。僕自身のは見つかってないけど、ハッキングしたことには変わりないし、将来有望な妹の経歴に泥を塗りたくないからね」 「……妹のこと大事にしてるんだな」 「うん。巷で言うシスコンってやつ?」  いいなそれ、と答えた。人を大事にするなんて、俺には一生出来ない気がする。

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