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 その表情のまま花咲を見れば、口は半開きのまま顔を真っ赤にして俺を見ていた。こうしていると、本当に女みたいだな、と少し思ったところで心の内で頭を振る。いや、そうではなくて。 「どうした? 顔真っ赤だぞ」  訊くと、花咲ははっと我に返って俺にしがみついてきた。いきなり勢いよく来られたもんだから、支えることもできず体勢を崩してベッドになだれ込む。 「おい、どうしたんだよ?」 「藤原君絶対他の人の前で笑っちゃ駄目!」  俺の胸に額を押し付けながら花咲が必死にそう言った。  そんなに気持ち悪かったのか。ちょっとショックだな。  少し落ち込みながら、しがみついていた花咲を引きはがして起こし、自分の体も起こす。俺を見つめる花咲は、まだ顔が少し赤い。 「すまん。気持ち悪いもの見せたな」 「へ?」  素直に謝ったのに、花咲は頭にハテナマークを浮かせた。 「さっきの俺の笑顔が気持ち悪かったんだろ?」 「え? ちが、何で?」 「違うのか?」  双方が頭にハテナマークを何個も浮かせる。話が食い違っているようだ。 「気持ち悪くなんかなかったよ?」 「気持ち悪かったから、怒って顔赤くなったんじゃないのか?」 「そんな人がいるならお目に掛かりたいよ……」  はあ、とため息を吐かれた。間違いなく馬鹿にされている。だが、不思議と怒りなどはない。そういえば、そろそろ限界近いと思っていた衝動が、花咲とこんなに側にいるにも関わらず、湧き上がってこない。花咲に全く敵意がないからだろうか。  その時、何かの臭いがつん、と鼻についた。  ん? 何の臭いだ? 少し焦げ臭いような……。 「花咲。焦げ臭くないか?」 「え? あっ、ああああっ!」  心当たりがあるようで、花咲は慌てて寝室から出て行った。俺もベッドから降りて、リビングに顔を出す。  と、臭いがぐんと増した。思わず鼻を押さえてしまう。花咲の姿が見えない。 「花咲?」  リビングの横にあるキッチンの方へ行くと、花咲がコンロの前で呆然と立ち竦んでいた。 「どうした?」 「ふ、藤原君……」  花咲は錆び付いたロボットを思わせる動きで、ギギギ、と首だけを俺の方に向ける。その顔は幽霊のように蒼白で、何だか嫌な予感がした。 「何があったんだ?」 「焼き魚にしようと思ってたんだけどね……」 「おう」 「僕機械に頼るの嫌だから手動で作ってたんだ……」 「で?」 「真っ黒くろすけになっちゃった……」  花咲は泣きそうな顔をして、言葉通り真っ黒くろすけになってしまった魚の残骸を俺に見せた。ってことは。 「ご飯は……」 「……本当にごめん。食堂じゃ駄目かな……?」  嘘だろ。よりによって、初日から。誰かに絡まれでもしたら、殺人衝動を抑えきれる自信はない。  そう言いたかったが、余りにも不憫で可哀想な花咲の表情を見れば、口に出すことはできなかった。それに、半分以上俺のせいだ。謝るのは俺の方だ。 「悪い、俺のせいで余計なことさせたな」  花咲はぶんぶんと頭を左右に振って、俯いてしまった。その頭にぽんぽん、軽く左手を乗せれば、もう一度、ごめんなさい、と小さく花咲が謝った。その姿が親に怒られた子供のようで、花咲の視界に入らないように、花咲の頭に手を置いたままもう一度口元を緩ませた。

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