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花咲の後に着いて訪れた食堂は、これまた豪華だった。高級レストランのキャパシティを限界まで引き伸ばしたようなそこは、大勢の人で溢れている。
ドクン、と心臓が一際大きく鳴った。駄目だ。鎮まれ。お願いだ。
「だ、大丈夫……? 僕のせいでごめんね……」
胸を押さえて大きく息を吐いた俺に、泣きそうな顔でまたも謝る花咲。
「大丈夫だ。これくらいで我慢出来なかったら、今頃人類全滅してるぞ?」
心配させないようにそう言ったが、正直なところかなりキツい。もしここで誰かがいちゃもんでもつけに来たら、殺してしまう自信がある。全く、嫌な自信を持つようになってしまったものだ。
必死に心を鎮めていると、花咲を呼ぶ声が聞こえた。
「圭佑!」
声の方を向けば、あちこちに跳ねた茶色の短い髪を揺らしながら小走りでこちらに近付いてくる男子生徒が見えた。花咲には劣るが、それでも大きな瞳を持った人懐っこいワンコのようなその男子生徒に、花咲はにこやかに問いかける。
「陽太君、どうしたの?」
「お前こそどうしたんだよ? 食堂に来るなんて珍しいじゃん」
「魚焦がしちゃって。席空いてる?」
「ん、俺たちのところでよけりゃ……って、こいつ誰?」
今更気付いたのか、花咲の横に立つ俺をまじまじと見る男子生徒。そんなに見るな。穴が開くだろうが。
「僕の同室、ほら、転入生が来るって行ってたでしょ? その人だよ。藤原聖君」
「ああ、転入生な。俺、鈴木陽太 」
よろしく、と言って、鈴木は俺に手を差し出してきた。同じようによろしく、と返して手を握る。
ん? この手は──。
「お前、喧嘩慣れしてるな?」
「んーまあな。毎日喧嘩してたよ」
顔に似合わず、節だったその手には拳ダコができている。ちょっとやそっと、殴り合いをしただけでは出来ないものだ。
「お前もそれ、包帯」
「下手やっただけだ」
やっぱりバレるか。
「えっと、藤原か。クラスどこ?」
「E」
「Eか。優等生だな」
ここではな、と鈴木が笑う。本当は違う。優等生なんて言葉、俺には一生無縁だ。鈴木の眼の前に立つそいつは、人の道を外れた非道く残酷な獣なのだから。
「……お前は?」
「ん、Dだよ。衝動的に殴ったやつだけ」
「その、クラスの決め方って、何かルールがあるのか?」
「暴力系は捕まったきっかけになる喧嘩とかで、意識不明にした奴の数でクラスが決められんだ」
そんな話をしていると、不意に横から腹の音が聞こえた。横を向くと、花咲が顔を赤くしている。
「すまん、腹減ったよな」
「……うん」
素直だ。俺たちはひとまず鈴木と別れ、飯を受け取ってから、鈴木がいる席に座らせてもらった。ちなみにメニューはごく普通の食堂で置いてあるようなものばかりだったと思う。ここだけ庶民的なのは謎だが、普段食べていたものを食べれるのは却って安心感があった。
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