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案内された席には、長谷川漣 という鈴木の連れがいた。真っ黒の落ち着いた髪に黒縁眼鏡というまさに優等生という感じだが、顔が整っていて目が細いせいか、冷たい印象を与える奴だ。少し話してみると、性格も外面に違わず冷酷だった。会って数分で決めつけるのも悪いが、なかなかに良い性格をしていると思う。鈴木と長谷川はこの学園に入る前から仲が良かったらしく、鈴木が捕まったときに長谷川も警官を殴って自ら捕まったらしい。そこは外面と違って、少し驚いた。クラスは鈴木と同じDだ。
食堂の隅で四人で飯を食べる。不思議と殺人衝動の発作は落ち着いていて、胸を押さえる必要もなくなっていた。こいつらが今までの奴らと違うのか、それとも俺が変わったのか。包帯を巻いている右手の痛みもあるのかもしれない。
「なあ、藤原ー」
一番最初にご飯を食べ始めているのに、まだ食べ終わっていない鈴木が、カツを頬張りつつ言った。俺はとっくの昔に食べ終わっていて、長谷川も今しがた食べ終わったところだ。花咲は小さな口でうどんをはふはふしながら食べていた。
……もういい加減冷めていると思うんだが。
「ん?」
「ほはへにほれはらひゅうほふひなへれはいへないほとはある」
いや、まず口の中一杯に詰め込んであるものを飲み込め。何語を話しているのか全く理解出来ない。
「食べるか食うかどっちかにしろ」
俺が言う前に、長谷川が窓の外を見ながら言った。
「はへはわ!? ほれひゃへっは」
「喋るという選択肢はないぞ」
「……」
ぴしゃり、と長谷川に告げられ、言い返すのは観念したのか、鈴木は静かに咀嚼し出した。
「サンキューな」
「うるさかったからな」
「へ、ほい」
まだ咀嚼しきれていない鈴木が口を挟もうとする。
「だな」
「うるさかったよねえ」
「へいふへ!」
にこにこしながら吐き出された花咲の言葉に愕然とする鈴木。そんな鈴木の様子を全く気にせずに会話を続ける。
「花咲意外に毒舌なのか?」
「そうなのかな。まあ漣君には負けるけど」
「……あの、喋っても良いですか」
鈴木がやっと飲み込んだようだ。長谷川が露骨に嫌な顔をして、鈴木に叩かれそうになっていた。もちろん長谷川は余裕で避けていたが。
「で?」
「お前に俺から忠告しなければいけないことがある」
畏まって言う鈴木に何故か笑いがこみ上げてくる。必死に抑えて先を促した。
「何だ?」
「俺からだけじゃなくて、多分まともな奴ならみんな忠告する内容だ」
「おう」
「お前、絶対Aクラスとか生徒会なんかに近づくんじゃねえぞ」
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