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「やっぱ周りが同性ばっかだと、恋愛の対象も同性になんだよ」 「なりませんよ。俺前男子校だったし」  そう告げれば、桑山先輩は先程よりも目を丸くして首を傾げた。 「え、まじ? 男同士で付き合ってる奴とか居なかったのか?」 「俺の知る限りでは一人も」  桑山先輩がへえー、と心底感心したような声を出す。  他人と話をして落ち着いたためか、自分がしたことを嘆くよりも、花咲の容態が気になり始めた。手を離した瞬間は息をしていたから、おそらく命を奪ってはいないが、危険な状態であるのに変わりはない。今すぐ戻って容態を確認して、謝らなければと思い、踵を返す。 「待てよ」  言われると同時に、腕が引っ張られた。内心焦りながら何ですか、と言おうと振り向いた瞬間。 「ん、!?」  唇に柔らかいものが押し付けられた。間近には桑山先輩の顔。後頭部は手で押さえられて逃げられない。  俺は今──男にキスされてるのか……!? 「ん、やめ、ぁ」  やめろ、と口を開いた瞬間に、口内に入ってくる滑ったもの。  まずい、やらかした。そう思っても時はすでに遅し。桑山先輩の舌が、俺の口内を蹂躙し始める。 「ん、ふっ……」  腕で桑山先輩の身体を押し返すが、壁のごとくびくともしない。  気持ち悪い。何が悲しくて男とキスなんざしなきゃいけないんだ。  しかもなかなか離れる様子がなく、一方的な行為に息継ぎのタイミングも図れず、息が続かない。このままだと、酸欠で死んでしまう。  死の危険を察知した俺は、意を決して桑山先輩の腹に思いっきり膝蹴りを食らわせた。  ドゴン! という鈍い音と共に、俺の口に呻き声を残して桑山先輩が離れ、うずくまる。  唇を急いで何度も強く拭う。しかし、しかと刻み込まれた感触は、そう簡単には消えてくれない。好き勝手に手を出してきた桑山先輩、そして好きなようにされた自分の双方に激情の矛先が向いた。  腹を押さえて歯を食い縛りながら睨んでくる桑山先輩を、怒りを露にして逆に睨み付ける。 「テメェ……」 「いきなりキスしてきたそっちが悪いんでしょう? 二度と俺の前に姿を現さないで下さい」  そう吐き捨てて、何か言われる前に俺はまた全力で元来た道を走り始めた。  俺が去った後で、地面に落ちている土で汚れたハンカチを握り潰しながら、桑山先輩が「許さねえ……、覚えてろよ……」なんて恐ろしい言葉を言っていたとは知らずに。

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