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 部屋まで戻ってきた俺は、ドアの前に立ち尽くしていた。  ガサガサと物音が聞こえているので、恐らく花咲は無事だ。それに関しては、ほっと胸を撫で下ろした。しかし、無事だと分かると今度はどういう顔で会って良いのか分からない。  悩んだ末に、俺はドアの横の壁に背を付けて座り込んだ。こうして悩んでいる間にさっさとドアを開けて謝ればいい。謝っても許してもらえるかは分からないが、邪険にはしないだろう。花咲からは人の良さが滲み出ている。  しかし、言えないのだ。  たった一言。 『すまない』  それだけが。 「はぁ……」  目を瞑って項垂れれば、無意識にため息が口から零れ出た。そんな俺に、頭上から声がかかる。 「あれ、藤原? 何してんだ?」  話しかけてきたのは鈴木だった。少し驚いたような様子で俺の前に立っていた。そのすぐ後ろには長谷川もいる。  鈴木の質問に、花咲の首を絞めた、とは言えず、咄嗟に嘘をついた。 「いや……ちょっと夜風に当たりたくて」 「夜風ならベランダ行った方がいいだろ。体調悪いんだったら無理すんなよ?」  真剣に心配してくれている鈴木に罪悪感を感じる。しかし、漸く出来るかもしれない『友達』という存在を捨てたくない、と駄々をこねる自分がいる。  どれだけ自分本位なんだ、俺は。 「……ありがとな」 「おう! あ、俺たち隣だから、何かあったらいつでも来いよ」 「ああ、分かった」  隣であれば、接触する機会も多々あるだろう。この二人にも手を掛ける想像が一瞬脳内をよぎり、冷や汗がぶわっと吹き出る。  じゃあな、と手を振って隣の部屋に入った鈴木に、苦笑いを零した。 「お前、圭佑と何かあったのか」  一人になったと思った瞬間に話しかけられて、びくり、と体が跳ねる。鈴木と一緒に部屋に入ったものだと思っていた。存在感が無いだけなのか、はたまた気配を意図的に消していたのか。俺の真意を探るような視線からして恐らく後者だろう。 「ついていかなかったのか」 「浮気がバレて放り出された夫みたいだぞ」 「なんだよその喩え」  自分から出てるんだよ。  というより、これだけ大きな声で喋っていたら、花咲にはとっくに気付かれているような気もする。 「そのまま一晩中外で過ごすつもりか? 山の上だから、夜はぐっと冷え込むぞ」 「いや……その、色々あってだな……」  はっきりしない言葉に、長谷川の目がさらに鋭くなる。どうしたものか。長谷川相手に誤魔化しきれるとも思えない。 「圭佑と喧嘩でもしたか」 「……近い」 「やることが早いな」 「うるさい」  嘘だ。全然近くない。大外れもいいところだ。  俺が悪い。一方的に傷付けて一方的に逃げ出したのだから。  自分の弱さを見透かされないように顔を伏せると、長谷川はそんな俺の頭を乱暴に撫でた。 「ちょっ……、何だ」 「転入生が一日足らずで同室者のことを完璧に分かろうとするな。無理に決まってるだろ」 「見当違いだ。……いい。俺が悪いんだ。話をつける。花咲のこと、頼むかもしれない」

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