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第二章 変わった学校
雀の囀りがどこかで聞こえた。窓から射し込む柔らかい光が、夜間の間に冷え込んだ部屋の中を徐々に暖めていく。
その部屋に、
「──っうし」
真新しい制服を着てネクタイを締める俺。
まだ罪人の学校に入ったという実感が湧かない。同室の花咲はごく普通の高校生──といいつつ情報屋をしたり男性同士の恋愛が好きだったりと、キャラが迷走している感じもあるが──だし、昨日会った鈴木と長谷川も普通の学校に居てもおかしくない、と思っている。桑山先輩は……ここが犯罪者たちの学校だということを抜きにしても変わっているので、指標の一つにはならないだろう。
今来ている制服も花咲曰く有名デザイナーがデザインした特注品だそう。金の無駄使いだな。
「藤原くーん、用意出来たー?」
「おう。今から行く」
個人部屋の外から声を掛けられ、返事をして鞄を持って部屋を出る。
玄関には、俺と同じ制服を着た花咲がいた。そして首には、季節外れなネックウォーマー。
「それ暑そうだな」
「藤原君もだよ」
花咲に指摘され、自分の首を覆う布地を指先で弄りながら苦笑する。
一晩で痕が無くなるわけもなく、二人揃って痕を隠すためのネックウォーマーをしている。包帯はさすがに目立つので、今の季節ではあればまだ不自然とはいかないネックウォーマーを選んだわけだが。
何しろ、暑い。もう少し薄手の物があればよかったのだが、花咲が所持していたのは真冬に使用するこの裏地がボアの物だけ。日に日に暖かくなっていくこの時期を恨む。
「なんか二人でネックウォーマーなんかしてるとさ、疑われちゃうかもね」
「ん? 何をだ?」
「キスマーク!」
「いやないだろ」
楽しそうに言う花咲をバッサリ切ると、花咲は口を尖らせてむっとした表情になった。
そんな顔されても可愛いだけなんだがな。小動物か小さい子みたいで。
「もういいもん! 行くよ!」
「はいはい」
ご立腹といった様子の花咲に続けて部屋を出て、昨日訳も分からず走った寮の廊下を、花咲と肩を並べながら一歩一歩踏み締めながら歩く。
廊下には俺たち以外にも同じように学校へ向かうであろう生徒たちが大勢いて、まるでヌーの大移動のようだ。
遅刻ギリギリの時間ではあるが、そんなことを気にする奴はこの学校にはそうそういないだろう。比較的真面目そうな花咲でさえ、まだ不機嫌なままゆっくりと俺の隣を歩いている。
「あることないこと言いふらしてやる」
「止めろよ」
「やーだ!」
花咲が、べー! と舌を出す。本当にこいつ高校生なのか。幼い言動も相まって、小学生にしか見えない。
「花咲はゲイじゃないんだろ?」
「うん。ノンケだよ」
「じゃあなんで男の俺にキスマークだなんだって駄々こねてるんだ?」
「略奪系がブームなもので」
ボーイズラブってやつの妄想のネタなわけか。
しかも略奪ってなんだ。俺は別に誰とも付き合ったりしてないんだが。
「藤原君綺麗だからねー。ネコにもタチにも人気あると思うよ! 美人ドS攻めでも無自覚誘い受けでも全然いける! ああ、でも僕はタチに一票かな」
なんだこれ。何処の星の言葉だ?
「そもそも俺は男相手にどうのこうのなるつもりはないぞ」
「くっ! しかし一回ハマってしまえば抜けられなくなること間違い無し!」
「説得力ないからな。お前もノンケってやつなんだし」
「……僕に萌えをちょうだーい!」
両手をグーに握ったかと思えば、上を向いて廊下で叫び出す花咲。廊下にいた生徒たちが驚いて次々にこちらに視線をやる。
止めろよ。初っ端から目立つじゃないか。
まだ喚こうとする花咲を眼光で黙らせて、寮からほぼ直結している校舎に入った。
俺の目は一重で細いから、睨んだら中々迫力があるらしい。よく両親にも言われていた。
『聖の目は綺麗ね。睨んだら怖いけど』
『聖の目はクールだな。睨んだら怖いけど』
そう言いながら二人とも笑っていたから、恐らく冗談半分だったとは思う。遊び心が旺盛な親だったな。もう、いないけど。
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