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 これ以上またあの時の記憶に引き摺られないために、頭を左右に振って脳内を清算する。今は思い出すときじゃない。  高校一年生の教室は四階にあるらしい。年次が上がるにつれて下の方に教室が移るというわけだ。職員室もそれぞれの年次担当毎に分けられて各階にあり、一年生担当の先生はもちろん四階の職員室になる。  先生たちしんどいだろうな。俺でも続けて上れば少し息が切れるくらいだ。  エレベーターはあるのだが、何故か使ってはいけないらしい。大きな荷物を運んだり、怪我をした人だけが使用できるのだそうだ。 「俺は職員室に呼ばれてるから」 「うん。また後でね」  階段を昇りきったところで花咲と別れる。  職員室は俺が入る予定のクラスの教室と真逆の位置にある。事前に花咲から手渡された地図を見ながら、職員室に向かった。 「失礼します。神沢先生いますか?」 「ん、誰だ?」  ドアを開けて中へ呼び掛けると、ドアから一番離れた机にいた男の先生が此方を見た。  神沢理一(かみざわりいち)。  髪は金髪で襟足が少し長く、前髪も横に流せるほどの流さ。顔立ち、姿は優男。もし白スーツでも着ていたら、ホストにしか見えないような容姿だ。生憎ジャージ姿だが。  髪の色もあってか大学生ぐらいに見えるが、花咲から聞いた話では、既に二十代後半だそうだ。 「藤原です。藤原聖」 「ああ、新しく捕まってこの学園にぶち込まれた奴か」 「オブラートって言葉知ってます?」 「馬鹿か、俺の担当は国語科だ。英語は知らねえ」  そんな会話を交わしながら、先生は俺の方へ向かってきた。近くで見ても格好良い。男が憧れる男、といった感じだ。 「教科書とかは持ってるな?」 「真面目なんで」 「真面目な奴がこの学園に入るわけねえだろ。よし、付いて来い」 「うっす」  ごもっともだ。一人で納得しながら、教室に向かう先生の後ろを早歩きで追いかける。  Eクラスの教室は廊下に笑い声が響く程、賑やかだった。教室の前に着くと、先生は俺に向き直った。 「一つ忠告しておく。この学校はおかしい」 「分かり切ってます」 「強姦や輪姦も横行している」 「……男同士で?」 「女がいないからな。仕方ないっちゃあ仕方ない」  いや諦めるなよ。そこは嘘でも何か対策をしているとか言うべきじゃないのか、先生。 「ま、そう言うことだからお前気をつけろ」 「え、何で俺が?」  そう言うことだから、という言葉の繋がりが見えず、脳天にクエスチョンマークを出すと、先生はやれやれといった様子で溜め息を吐いた。 「鏡見ろ。全てを教えてくれるはずだ」 「何て鏡ですかそれ」 「神沢DX(デラックス)」 「処分決定ですね」 「うるせえ。入るから続いて入ってこい」  そう言って、先生が教室に入っていく。続けて、俺も教室へと足を踏み入れた。

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