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 瞬間、教室の空気が激変した。  さっきまで騒音レベルだった教室が、一瞬にして静まり返る。まるで世界が突然切り替わったかのようで気持ちが悪い。教室内の視線の全てが自分に向いているとなれば尚更だ。  俺が何か変なことでもしたんだろうか。でもただ単に入ってきただけだしな。  大して働いたこともない頭をフル回転させるが、すぐ諦める。  一方の先生は、俺の名前を黒板に書いて、何事もなかったかのように口を開いた。 「昨日言っていた転入生だ。まあこのクラスだしそんな悪い奴じゃねえと思うがな。あと無闇に近付くなよオメーら」  最後に付け足した言葉に、静かだった教室が音量のツマミを一気に回したようにぶり返す。生徒たちが一斉にブーイングしたためだ。  というか、先生に危ない人認定されてないか。こいつらは俺のために怒ってくれているのだろうか。  不満と疑問を抱えつつ、先生に顎で促され簡単な自己紹介をする。 「藤原聖です。万引きでしょっぴかれました。これからよろしく」  四方八方から生徒たちが口々によろしくーと返してくれた。俺の心も盗んだでしょー、とか言う阿呆な奴らもいたけど。  とりあえず指定された空いている席に座ると、後ろから背中をつつかれた。振り返ると、花咲が笑いかけてきた。 「へへ、総愛されフラグ立ったね」 「お前いい加減こっちの世界に戻ってこい」  呆れ顔で言う俺に、花咲はニヤリと口角を上げがる。 「ま、これから(僕に萌え提供)よろしく!」 「……顔に本音出てるぞ」  もはや溜め息しか出ず、花咲の不純な視線から逃れるように前に向き直る。他にも周りから複数の好奇の視線を感じるが、そのうち興味を失うだろうと無視することに決めた。  未だにざわめきが収まらない中、先生が黒板に何かを書き始めた。そこには意外に綺麗な『雉学祭』の文字が。 「藤原が来たばっかりだが、早速雉学祭についての話し合いをする。オメーらの暴れられる少ねえ機会だ。少々無理でも俺が何とかしてやる」  不敵に笑った先生の言葉に、みんながさらに騒ぎ始める。 「さっすがりっちゃん!」 「惚れたよりっちゃん!」 「抱いてー!」 「抱かせてー!」  今まで教育の場で聞いたことのない言葉が飛び交う。先生が言っていた通り、この学校は確かにおかしい。いや、このクラスが、なのだろうか。先生が同性から見ても格好いいから、というのもあるかもしれないが、先生もいい迷惑だろう。  そう思いながら先生を観察してみたが、当の本人は全く気にしていない様子だった。 「抱いて抱かせて言った奴は雉学祭に出させねえからな。職権乱用ばっちこいだオラ」 「りっちゃん鬼畜!」 「ドS反対!」  訂正。かなり気にしているようだ。堂々と職権乱用までし出すくらいには。  しかし、思っていたよりクラスの雰囲気が良かったことに安堵する。犯罪者たちの学校だというから、クラス内ももっと殺伐とした感じかと思っていた。  生徒たちと言い合っている先生を片肘をつきながら眺めていると、突如横から手が伸びてきて、俺の目の前でピースを作った。 「っ!?」  驚いて手が伸びてきた方を見れば、もう片方の手でもピースをしている男子生徒が、俺を見て悪戯っ子のような笑顔を浮かべていた。

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