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「……っ!」  それは、俺が先生の弟を殺した、と。  その事実を、先生が知っているという事か。  先程とは違う理由から、体が小刻みに震え出す。落ち着け、と自分自身に言い聞かせても、止められない。止めどなく溢れ出てくる、目の前の人の人生を更に壊してしまうことに対する、恐怖の感情。  先生が震える俺の肩を強制的に押さえつけるように掴んだ。 「お前だろ、理人を殺したのは」  告げられた事実。ヒュッ、と空気の音が喉から出て、息が出来なくなり、咄嗟に右手で首を押さえて顔を下へ向けた。首の痣が、力加減を失った手の圧力に悲鳴をあげる。  苦しい。痛い。このまま、死んでしまえば、楽になれる、のに。  しかし、気持ちと反して体はなんとか生にしがみつこうと、下手くそな呼吸を繰り返して微かな酸素を取り入れようとする。不規則な呼吸音をさせたままもう一度顔を上げて先生と視線を合わせれば、今度は先生から視線を外した。 「安心しろ。俺も丸くなったし殺したりはしねえよ。でも──」  そこで先生は言葉を切った。そして怒りを滲ませた笑顔を顔に貼り付けて、ぎろ、と俺へ視線を戻して残りの言葉を吐いた。 「遊ばせてもらうぞ、テメェの身体で」 「っ……!」  今しがた行われた行為。それに準じる、あるいはそれ以上のことをするという宣言で間違いないのだろう。現に、俺を見る先生の目には、怒りの他に僅かながら欲情が含まれている。 「それ、だけは……」 「嫌って言える権利があると思ってるのか?」 「……っ」  思わない。全ては自分のせい。愚かな自分のせい。人を殺したいという異常な私欲のために、何の罪もない少年の命を奪い、その兄の心を抉り深い傷をつけた、自分のせいだ。  口を噤んできつく目を閉じて俯く。脳裏に浮かぶのはあの日の先生。酷く傷ついて、絶望と激憤と憎悪にいっぺんに呑まれ、自我を保つことすら忘れたあの青年。  もし、自分が先生の立場だったら。自分の大切な人を殺した人間を、痛めつけずにいられるだろうか。大切な人がいなかった俺には、推定することしかできないが、答えは恐らく、否。  暫くして、先生が溜め息をついた。その直後、俺の頭に優しく手が置かれる。それが何の意味を持つのか図りかねて、恐る恐る目を開き、疑問と焦燥の表情で先生を見上げた。

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