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「何もしねえよ」 「へ……?」  ぽっかりと空いた口から間抜けな声が出た。先生はそんな俺にまた溜め息をつくと、ジャージのポケットから取り出したポケットティッシュから一枚抜き取り、俺の萎えた欲望を拭いた。少し乾きかけていたためか、きつめに擦られる。それがちょっと気持ちよくて身を捩る。先生はすぐに察してくれて、パッと手を離した。 「下穿け」  そう言われて慌てて下着とズボンを穿く。俺が制服を綺麗に整えると、先生が俺の隣に腰を下ろして口を開いた。 「お前、だよな。理人を殺したのは」 「……」  直接的な言葉に先生の顔を見れず、俯きながら無言で頷く。一拍置いて、先生はぽつぽつと語り始めた。 「……圭佑から、次にここに来る奴だってお前の写真を見せられたとき、一目で分かった。今日、お前の反応を見て確信に変わった」  初めから気付かれていたのだ。ならば何故、何も言わなかったのか。 「理人が死んだあのときは、自分でも抑えられないほど腸が煮えくり返ってた。理人を殺した奴を絶対に殺してやる、地獄を見せてやるって思ってた。でも葬式のとき、最後に理人を見たら、なんか不自然なほど綺麗すぎてさ。本当に眠ってるみたいで」  俺がそうした。あの美しさは壊してはいけないと思った。穢れた俺の欲の対象にしてはいけないものだと。 「理人自身が憎まれて殺されたんじゃなくて、これは俺への見せしめだってのに気づいてな。俺のせいでこいつは死んだんだって。だから、お前を憎む気持ちも消えちまった」 「っ!」  弾かれたように先生の方を向けば、先生は前を向いたまま遠くを見つめていた。その横顔には、諦観の色が浮かんでいる。 「結局悪いのは俺なんだよ。だから、もういい」  ごめんな、無理矢理。  そう言って俺の頭を撫でる先生。先生の優しい目が、俺の心を突き刺してくる。  何で。どうして、先生が謝るのか。俺がこうなっていることは、当然の報いだ。いや、もっとやってもいいんだ、先生は。 「ごめん、なさい」  子どものように謝罪の言葉を口にすれば、急に目頭が熱くなった。潤む瞳を先生に見られたくなくて、立てた膝の間に顔を埋める。急に動いたからか、俺の頭を撫でる手が一瞬止まって、更に優しく撫でられる。  「いや。お前で良かった。他の奴にめちゃくちゃにされなくて、本当によかったと思ってる」 「良くない、全然良くなんか……!」 「誰かに頼まれたんだろ?」 「え……」  なぜ、誰かに頼まれたと分かった。  驚いて顔を上げると、先生は今にも泣きそうな微笑みを浮かべていた。

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