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「圭佑からの情報だ。殺人依頼掲示板、だろ? あいつは誰が殺したかまでは知らねえけどな」 「……」 「そこまで恨まれてたなんて、気付きもしなかった。傷だらけの理人を見たときに察せれば良かったんだろうが、あの時はもう理人を傷つけた奴等をぶちのめすことしか頭になかったんだ」  俺のせいなんだ、と先生は自分自身に言い聞かせるように繰り返し呟く。自分の肉親を見ず知らずの奴に殺されて、さらにその理由は自分の行いのせい、自分の存在のせいだと悟って、自分を憎むことはあれど慰めることすら出来ない。そんな、地獄のような生き方を、先生はあの時からずっと。 「……俺が殺した、俺が殺したんです。先生のせいじゃない、手を下したのは俺だ。俺が、私欲のために……」  今さら俺の言葉なんて聞きたくもないだろうが、少しでも先生が感じる罪悪感が軽くなればいいと思った。その言葉に対して、偽善者にも程がある、と自分の中の悪が唾を吐く。  先生は、俺の言葉に何かを言おうとして口をつぐむことを何度か繰り返した。先生も、まだ気持ちの整理がついていないのだろう。  暫くして、先生が決心したように俺を見つめて口を開いた。 「……もしお前が、理人に許されたいなら、あいつの分まで色んなものを見てくれ。あいつが見れなかった景色をその目に焼き付けて、いつか死んだときにあいつに話してやってくれよ」  あいつも喜ぶと思うからさ、と無理矢理貼り付けた笑みで俺に告げる。殺された相手から話されても、向こうも困惑するどころか拒絶しそうなものだと思ったが、先生が一生懸命考えて作った落とし所を無下にも出来ず、小さく頷いた。 「先生にも許されたかったら、どうすればいいですか」  俺の言葉に、先生は虚を突かれたような顔をして、また考え込む。 「……お前は俺の罪だ。戒めなんだ。お前にとって、俺はなんだ?」  先生は、やはり自分自身を責めることはやめられないらしい。ならば、その責めを少しでも俺が肩代わりできるように。 「……俺にとっても、戒めです」 「ならそれでいい。一生お互いに罪悪感抱えて生きようじゃねえか」  眉尻を下げて告げた先生の左目から、ぽろ、と涙が落ちる。たった一粒だけのその涙の分、先生から罪の重さが消えたような気がした。

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