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授業内容は一ヶ月弱分受けていないせいでちんぷんかんぷんで、途中から教師の声は無視して教科書を初めから必死に見て理解しようとしていたら、一瞬で時間は過ぎてしまった。結局今進んでるところまで追い付けず、久しぶりに使った頭は容量オーバー。駄目だ、自習しなければ。
雉ヶ丘に来て初めてきちんと受けた授業が終わり、教室から出ていく数学教師と入れ替わりで戸田が教室へと入ってきた。端正な顔に似つかわしくない、口元に斜めに貼られた絆創膏が目につく。
「あ、聖ちゃん!」
俺が声をかける前に戸田が目を輝かせて走り寄ってきた。
「すまん、余計なことを言った」
「全然! 良かったよ、ここにいて」
花咲がいる手前、言葉を濁して謝ると、戸田もそれを察したのか同じように言葉を選んでくれた。そのお陰か、花咲が少し不思議そうな顔をしたが、何も聞いてくることはなかった。
「で、それ大丈夫なのか」
「え? ああ、大丈夫大丈夫。掠り傷だから」
俺が口元の絆創膏を指差せば、戸田は絆創膏を撫でながらそう返してくる。一通り戸田わ上から下まで眺めるが、他に目立った外傷は見る限り無さそうだ。
「静利君、教室飛び出して何してたの? 怪我までしちゃって」
前の席から花咲も心配そうに戸田に声をかける。戸田は「色々とね~」とはぐらかしながら、俺にしか見えない角度でウィンクをした。本当のことは言わないで、ということなのか、うまく誤魔化せたね、ということなのか。どちらにせよ、戸田のお陰で色々と丸く収まっているのは確かだ。
声を出さずにありがとな、と戸田に向かって口を動かせば、戸田は微笑みながら軽く手を上げる。顔のいいやつは何をしても絵になるな。
「あんまり無茶しちゃダメだよ?」
「だいじょーぶ、りっちゃん絡まなけりゃ無茶しないって」
肘をつきながら顔を少し斜めに倒した花咲の頭を、あやすようにぽんぽん、と優しく叩く戸田。花咲はされるがまま「無茶しますっていってるのと同じだし」と眉尻を下げて口をへの字に曲げる。それから、あ、と手を頬から離して花咲が俺の方を向いた。
「そういえば、藤原君授業ついてこれた?」
「いや、全く……」
「やっぱりかー」
花咲が苦笑する。俺がこの四ヶ月間、事情聴取やら何やらで学校にいっていなかったことも調査済み、ということだろう。といっても、中学校で教えられる内容で受けられなかった分は自主的に勉強していたので、実質足りていないのはこの一ヶ月弱の範囲だけだ。他人の力を借りずとも、何とか追い付ける自信はある。
「いる? 個人授業」
「自習するから大丈夫だ。ありがとな」
「ならいいけど……分かんなかったら聞いてね、答えられる範囲で答えるから」
めちゃくちゃ範囲狭いけどね、といたずらに笑う花咲の額に、「おい」と言いながら緩く手刀を食らわせておく。痛がる様子もなく、花咲はいたずらな笑顔はそのままに、ぺろっと舌を出した。
そのタイミングで授業開始のチャイムが鳴り、戸田が俺の隣の席に座る。朝と同様の配置にやっと戻った自席周りの風景を眺め、これが日常になればいい、とそっと心で願った。
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