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 放課後。終末のような雰囲気を背負った俺と、同じく絶望を顔に貼り付けた戸田は、職員室へやってきていた。  午後の授業はこれからやってくる恐ろしい呼び出しのせいで耳から耳へ通過し、ろくに理解できなかった。教室を出るときには、花咲から「何やらかしたか知らないけど、死なないでね……」という不穏すぎる激励の言葉をもらった。ここまで来ると、ただの呼び出しが処刑にさえ思えてくる。 「し、失礼します……」  魂が抜けかけている戸田の代わりに恐る恐る職員室のドアを開ければ、元凶を作り出した先生がドアのすぐ側にいた。 「おー来たな、ちょっと待てよ」  驚きで思わず出そうになった声をなんとか呑み込んで、マグカップにお湯を入れている先生の言葉にこくこくと頷く。現在の先生の様子を見るに、特段怒っている様子などはない。  湯気の立つマグカップを片手に、一度職員室の奥へ向かった先生が、もう片一方の手に鍵を持ってやってきた。先生が鍵を持った手で職員室の右側を指差す。その先を見れば、国語準備室、とネームプレートがある教室があった。 「あんまり聞かれたくねえからな」  そう言いながら、先生は職員室を出て国語準備室の鍵を開け、扉を開けて入るように催促する。戸田が未だに職員室の前に突っ立っていたので、首根っこを掴んで国語準備室の中へ一緒に入った。  国語科というだけあって、壁には天井まである本棚が置かれており、その中の様々な本がずらりと並べられている。小さな図書館にも思えるその空間を眺めていれば、先生が扉と鍵を閉めて「椅子、そこら辺にあるから机の横に適当に座れ」と言った。  まだ意識がどこか遠くへいっている戸田を手近にあった椅子に座らせ、自分もその近くに椅子を持ってきて座る。先生は、机にしまってあった椅子を引いて腰を下ろした。 「さて、だ。手短に済ますぞ」  先生の鋭い視線が俺に突き刺さり、無意識に口の中に生唾が溢れ、自分を落ち着かせるためにもそれを呑み込んだ。 「藤原、お前屋上で飛び降りようとしてただろ」  いきなりど直球な指摘を受けて、思わず「なんで……」と声に出してしまった。その反応から間違いではないと悟ったのだろう、先生ははあー、と大きな溜め息を吐いた。 「他の先生が向かいの校舎から見てた。フェンスに手をかけてたって。お前があんな顔で景色なんぞ見に行かねえだろ」 「……」 「理由は……まあ聞かなくても大体想像がつく。その上で、だ」  先生は一旦そこで言葉を切り、俺の方へ腕を伸ばした。一瞬殴られるのではないかとほんの少し目を細めたが、その手は俺の頭の上へ優しく乗るだけだった。 「生きろ」  そのたった一言で、先生は俺に呪いをかけた。苦しくても、辛くても、絶望の淵に立たされても、死ぬことは許されない。それが、先生の大事な人を奪ったことに対する、贖罪。

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