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 それから一週間。特段何かが起こるわけでもなく、ただ授業を受けて、花咲の作った弁当を食べて、さらに授業を受ける毎日。放課後はまっすぐ寮に帰ったり、買い出しのために敷地内にあるスーパーに花咲と寄り道したりと、至極平凡な、いや、平和な生活を送っていた。週一日だけ付与される休日には、鈴木や長谷川、戸田が部屋に遊びに来て、この雉ヶ丘に来る前の生活をそれぞれ語り合っていた。……はずなのだが、途中から花咲によるボーイズラブの布教の場と化していた。俺が「なんでそんなにボーイズラブが好きなんだ?」と口を滑らせてしまったせいなので、花咲を除く三人からは視線で責められてしまった。申し訳ない。  今まで暗澹たる日々だったからか、この天国にも似た生活が酷く心地よく、また、初日に起こったあの出来事のせいで本能が息を潜めていたのも災いし、俺は自分が何者であるかを完全に忘れてしまっていた。今考えると、その罰が当たったのだと思う。  学園にも少し慣れてきたその日、いつものように花咲と戸田と昼飯を食べていた。神沢先生は昼休みに先生同時で話し合いがあるらしく、遅れて教室に来ると聞いていた。 「にしてもほんっと弁当美味しそう」  今日も売店で買ってきたらしいメロンパンを頬張りながら、戸田が俺の弁当を覗き込んだ。今日の弁当も彩り鮮やかなおかずがこれでもかと入っている。 「食うか?」 「聖ちゃんの分少なくなるじゃん。りっちゃんからもらう~」  ちゅーっと紙パックのオレンジジュースを飲みながら戸田が答える。別にひとつくらい人にあげても問題ないのだが、しつこく言うのも違うように思えてそうか、とだけ返した。 「静利君の分も作ってこようか?」  花咲の提案に、戸田は目を輝かせて「いいの!?」と身を乗り出した。思っていた以上の反応だったのか、花咲は驚いたように少し体を引いたが顔は嬉しそうに綻んでいる。そんなやりとりを眺めながら水筒に入った麦茶を飲んだときだった。  バン! と教室全体が痺れるような轟音が入り口の方から鳴り響いた。  何事かとそちらを確認しようとした俺の顔を、即座に立ち上がった花咲が焦りの混じった声で「ダメ!」と叫んで、両手で掴み胸へ押し付ける。なんだ、何が起こった。 「そいつを寄越せ」  聞こえた声には心当たりがありすぎた。あの日の、一週間前の記憶が甦る。あの日、その声の主によって行われた屈辱的な行為を覚えていた身体が、勝手に小刻みに震えだした。その振動が伝わったのか、俺の顔を抱く花咲の腕に、ぎゅっと力が入る。 「何の用だよ」  少し入り口の方へ遠退いたところから聞こえる戸田の声は、たった一言だけなのに、そこら中から棘を生やした凶器のようなものに感じるほど鋭かった。 「そいつを、寄越せ」  先程と同じ言葉を、ゆっくりと繰り返す訪問者。威圧感を持った重低音の波が、俺の体をさらに震わせた。 「お前に渡すもんなんかないね、早く帰れ」  語気を強めて戸田が唸ったときだった。  強い力で床を踏み込む音が聞こえ、一拍遅れて息を呑む音、そして、重たい打撃音と同時に無理矢理大量の空気を吐いた音が俺の耳に流れ込んできた。それは花咲も同じだったようで、思わず振り返ろうと体を捻った際に腕が緩む。その腕によって固定されていた俺の頭は自由になり、頭の位置が少しずれて、花咲の体と腕の隙間から向こうの様子が見えた。

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