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次の日、朝から花咲は神沢先生と戸田を連れて病室に来た。授業はどうしたのかと問えば、今日は日曜日だと返ってきた。昨日はまじまじと見なかったからか気付かなかったが、花咲の首にあった痣は、指の腹が当たっていた部分がうっすらと残っている程度で、もうほとんど見えなくなっていた。ついでにと鏡で俺の首を見せてもらったが、そちらは跡形もなく綺麗になっていた。
花咲の言うとおり、先生は手を出しては来なかったが、開口一番説教が飛んできた。病室ということもあってか声量は抑えられていたが、言葉は荒く、先生が本気で怒っているのが見てとれる。そんな先生の背後から、戸田と花咲が心配そうな顔で俺の様子を見ていたので、大丈夫の意を込めて、小さく頷いておいた。
言いたいことを全て言い切ったらしい先生が、「返事は!」と一際大きな声を出した。
「はい。……すみませんでした」
しおらしい俺の態度に、先生も寄せていた眉間の皺を緩め、ぽん、と俺の頭に大きな手を乗せる。
「まあ、なんだ。生きてて良かった」
呟かれたその言葉と、先生の手から感じる温もりが、先生の優しさを十二分に俺へ伝えてくる。嬉しそうな戸田と花咲の顔も見えて、俺も自然に微笑んでいた。こんな俺には勿体無い程の優しさに包まれ、時間は緩やかに過ぎて行く。
赤髪から危害を加えられた戸田の怪我の状態は浅く、病院で検査を受けることもなかったらしい。でも暫くはトイレするのも辛かったんだよ~、と泣き真似をしながら戸田が報告してくるので、苦笑しながら大変だったな、と返した。
「でも、大事に至らなくて良かった」
「俺もっと鍛えなきゃ……さすがにワンパンで沈められんの情けない……」
ないはずの犬耳がしょんぼりと垂れているのが見えた。あまりにも可哀想だったので、相手が相手だから、と慰めておいた。
その後、医者がいうには全身骨折、頭蓋骨骨折、脳挫傷、その他諸々の怪我を負っていた俺は、驚異的な回復力を見せ、なんと二週間で完治し学園に戻れることになった。人より回復は早い方だったが、さすがにここまで超人的ではなかったはずだ。日に日に痛みが萎んでいくあの奇妙な感覚は、生まれて初めてだった。
その回復力の異常さに、怪物か? と、お前が言うなと叫びたい相手ナンバーワンの神沢先生から言われてしまった。が、怪物じみているのは言う通りだった。
入院中は色んなことがあった。面会は毎日行われ、平日は授業が終わってから、休日は面会可能時間中ずっと病室に居た。鈴木と長谷川も足を運んでくれ、賑やかな時間を過ごした。……いや、賑やかすぎたように思う。個室でなければ同室の患者からクレームが間違いなく入るはずだ。
とりあえず鈴木と長谷川は、看護師達のブラックリストに入ったようだった。俺まで恨まれるところだった。何があったかは言わない方がいいだろう。
戸田はとにかく俺に抱き付いてきて、初めの二、三日は、人生で一、二を争うほどの痛みに苛まれた。校舎から落ちたときは凄まじい衝撃には襲われたものの、痛みは一瞬で感じたかどうかも怪しいくらいだったので、その時よりも確実に痛みは上だ。もはや嫌がらせではないかと疑ったりもしたが、戸田は本能的に誰かに触れておきたいタイプらしく、人はこれほどまでに白くなるのかと思えるほどの顔面蒼白っぷりを披露し、毎度先生に拳骨を喰らっていた。
そんな中、花咲だけは癒しだった。天使と表してもいいかもしれない。手が動くようになってからは花咲の頭を撫でることで、病室で暴れまわる四人に対して荒ぶりそうになる精神を落ち着かせていた。花咲もそれを察していたのか、大人しく頭を貸してくれていた。
隙あらば先生と病室でおっ始めようとするのは止めて欲しかったが、花咲自身は怒気を含んだ声をあげて逃げて回っていたので、あれは嫌がらせをされていたのだろう。
そんなドタバタな入院生活も終わり、一か月ぶりに俺は学校に復帰した。
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