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「一君、僕とお話しよう?」
「話するよりヤりてえんだけど」
「いつからそんな下半身男になっちゃったのかなあ……」
恐らく戸田や俺が言えば一発飛んできそうなストレートな言葉を口にしながら、遠い目をする花咲。先生は気分を害した様子もなく、生理的な嫌悪感を覚える笑みを浮かべながら、花咲を見ている。花咲も同じように感じたのか、ぶる、と小さく体を震わせた。
「お前と会ったときからだよ。何かお前そそるし」
「教師が生徒にそそるとか言わないの」
「別にいいだろ。今日駄目か?」
「一回も許したことないからね。誤解生むようなこと言わないでね」
あらぬ疑いをかけられそうになった花咲の額に、いつも先生の顔に浮き立っている青筋が現れる。俺が任せといてなんだけど、花咲も大変なんだな。
「はいはいそこ! なんか雉学祭のアイデア出してー!」
無自覚なのか、先生が更に花咲を怒らせるであろう言葉を重ねようとしたとき、戸田がいいタイミングで割り込んだ。出鼻を挫かれ、機嫌を損ねた先生が戸田をこれでもかと睨み付ける。その鬼の形相に怯む戸田。
「り、りっちゃ……」
「それぐらい自分で出せるだろうが」
「え、いや、俺の独断と偏見でいいなら別に」
「好きにしろ」
先生が無表情でそう吐き捨てると、戸田の目が途端に輝き出した。待て、先生。それは駄目じゃないだろうか。こいつ、多分ろくでもないことしか考えてそうにない。
「じゃさ、女装喫茶やりたい!」
やっぱりろくでもなかった。嫌な予想が当たってしまった俺は、はあ……とこれまた深い溜め息をついた。先生も流石に呆れた顔をしている。
「阿呆か。誰が静利みたいなむさ苦しいやつの女装なんざ見に来るんだ」
「ひっで! りっちゃん知らないかもだけど俺よく告られるのよ?」
「チワワにだろ」
「ガチムチに!」
「そのまま犯られろ」
「ひっでえー」
馬鹿話は止めてくれ。
しかし戸田の言っていることは嘘ではないと思う。戸田は顔は整っているが、格好いいというより綺麗な顔立ちだ。背も高い方ではあるが、体つきはほっそりしている。筋肉はあるようなので、着痩せするタイプなのだろう。総合的に見れば、戸田の言う通り、攻め側から好かれそうだ。
……ってなんで納得してるんだ俺は。ガチムチやらチワワという言葉を理解して、更には分析までしてしまっている自分を殴りたい。完全にこの環境、特に花咲に毒されてしまっている。花咲が知れば、教育の賜物だね! などと言いそうな具合だ。
「何なら俺が掘ってやろうか」
「えー、りっちゃん下手そう」
「誰が下手くそだコラ」
「てかまず俺掘る方だし?」
「掘られる方が合ってるぜ」
もう雉学祭の話から完全に離れてしまっている。というかそんな話を教室の前と後ろでするな。
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