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 クラスメイトたちは二人の会話を楽しげに聞いているが、さすがにこれは軌道修正をした方がいいだろう。 「戸田、話し合いしよう。あと女装喫茶は却下で」  二人の会話に割り込めば、戸田は酷く残念そうに声をあげた。 「ええー! 俺、聖ちゃんに女装させて掘る気満々だったんだけど!」 「何然り気無くヤろうとしてんだ馬鹿か!?」  何で俺が男とヤらなきゃならないんだ。掘る気はないが、掘られる気はもっとないぞ。  俺の言葉に、隣で大きくうんうん、と上下に顔を動かす先生が、口を開く。 「藤原の言うとおりだ。こいつの処女は俺がもらう」 「アンタも黙れ! 男相手に盛るな!」 「略奪……!」 「花咲もいっぺん黙ろうか」  流石に馬鹿のトリプルコンボはダメージが高く、今度は俺の額に青筋が浮いてきた。本能とは関係なく殺意が湧いている。  このままいけば収拾がつかないと判断し、全員に一発ずつ拳骨を落としたい気持ちを必死に抑えながら、雉学祭の話に無理矢理戻した。 「でも喫茶店とか在り来たりだろ?」 「んー、他はホストクラブとか劇とか、後は縁日とかかなー」  最初からそれを言え戸田の阿呆。  心の中で悪態を吐きながら、先生に訊く。 「当日って外からも来るんですか?」 「ああ。女性の客が多いな、やっぱ」  この学園の生徒は何故かみんな見た目がいい。さらに、女性は顔のいい男の情報に敏いイメージがある。犯罪者とはいえ、監視の目がきちんとある場所でなら、興味があるということか。 「じゃあ女性の客にターゲット絞って、ホストクラブやった方がいいと思うけど」 「聖ちゃんがホスト? あ、でもそれでもいい」 「いや、俺は裏方に回る」 「えー、せっかく聖ちゃんがスーツ着たままみんなの前で見られながらヤれると思ったのに」 「色々突っ込み所はあるがとりあえずその口縫わせてもらおうか!」  初めて衝動が出てくれって祈ったぞ今。  立ち上がって息を荒くしている俺に、戸田は投げキッスを飛ばして(無論避けた)、クラスメイトに向き直った。 「って訳でホストクラブでいい?」  いいぜー! という声があちこちから飛ぶ。その声を聞きながら、先生もさっきまでの性欲じみた顔はどこへやら、優しい笑顔で頷いて俺の頭を撫でた。よくやった、といった感じだろうか。  毒気を抜かれて、半ば落ちるように椅子に座った。 「じゃあ決まりー! あ、でも酒無理だよね?」 「当たり前だろ頭沸いてんのか」 「りっちゃん言い過ぎ……、泣くよ俺」 「おう、泣け泣け」  何とまあ先生の冷酷なこと。  その後、寄り道はあれど何とか話し合いは進み、酒はジュース等で代替することになった。その際、炭酸飲料をどう確保するのかという質問が出て、単純にスーパー等で買えばいいと思っていた俺は目が点になった。俺以外の生徒からは、「確かに」、「どうするんだろう」といった声が聞かれる。不思議がっている俺に気づいた花咲が、その理由を教えてくれた。 「この前輪姦された子がね、炭酸を尻から入れられたんだ。それで、スーパーとかで炭酸が取り扱い禁止になってるの」  思いもよらぬ衝撃的な理由に、俺は口をあんぐりと開けるしかなかった。

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