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 結局、炭酸飲料は先生が何か策を考えるということで、一旦お預け状態になった。  次にホストクラブの詳細を決めていくフェーズになって、またもや戸田のスーパーお馬鹿タイムが始まってしまった。 「よし、じゃあこれは天使の愛でいい?」  黒板に、『ジンジャーエール』と『天使の愛』を並べて書きながら、戸田がクラスメイトに問い掛ける。既に黒板に書かれている飲み物にも、この短時間でよくぞこんな歯の浮くような言葉を考えたとむしろ感心するほどの、よく分からない二つ名がセットでついていた。 「いいねいいねー!」 「それでいこう!」  教室のあちこちから、戸田に賛同の声がかけられ、教壇に立つ戸田は上機嫌で『天使の愛』の文字を大きくぐるっと丸で囲む。そんなやり取りを、俺は完全に冷めた目で見ていた。  初めはいちいち反応して抵抗していたのだが、戸田だけではなく、Eクラスの生徒たちみんなが戸田と似た思考をしていることが判明してからは、抵抗をやめてどうすればあの言葉達を言わずに済むかだけを考えることにした。恐らくこの中では常識人に入る花咲も、諦めているのか、はたまた興味がないだけなのか、楽しそうにまたカメラを弄って自分の世界に入り込んでいる。  多勢に無勢で負けるのが確定している争いは、挑まないに限る。決して逃げてはいない。決して。  それでも無意識に眉間の皺が深くなっていく俺の頬を、先生が横から指でつついてくる。力加減を知らないのか、かなり痛い。 「止めてください。痛いです」 「おっと、すまん」  視線も寄越さず伝えたいことを端的に言えば、つつく指がなくなり、視界の端で先生がぱっと両手を開いて仰け反ったのが分かった。すぐに両手を下ろした先生が、ふっ、と鼻を鳴らす。 「許してやれ」 「……」 「あいつら馬鹿だからな」 「知ってます」  気付きたくなくても気付いてしまう程の馬鹿さ加減だ。あんなに分かり易いのはどうかと思う。  ぶすっとした顔をこれ以上見られたくなくて、窓の外に顔ごと視線を向けて即答すれば、先生は声をあげて笑った。 「馬鹿なとこが可愛いんだけどな」 「馬鹿が、可愛い?」  先生の驚きの言葉に思わず振り向いて、そのままぽかんとした表情になってしまった。なんて顔してんだ、と先生に鼻を摘ままれて、やっと我に返る。 「可愛くないか?」 「面倒臭いだけでしょう」 「そう邪険にしてやるな」  先生の顔に苦笑が浮かぶ。ころころと変わる表情を器用だな、と思いながら、「関わらないのが一番です」と返しておいた。

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