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 馬鹿が可愛い、ということは、普段先生が酷い扱いをしている戸田も可愛いと思っているのだろうか。だとすれば、先生の中では、特別扱いの花咲とどちらが上なのだろう。 「先生、戸田と花咲とどっちが好きですか」  脈絡のない質問。問われた先生は、驚いたように目を見張った。 「何だいきなり」 「いえ、何か気になって」 「俺はどっちも好きだけど」 「うえっ」 「おい圭佑、吐くんじゃねえ。地味に傷付く」  いつの間にか話を聞いていたらしく、目をぎゅっと瞑りながら吐く真似をした花咲の頭を撫でながら、先生は俺に向かって微笑んだ。 「俺はみんな大事だぞ。みんな何だかんだ言っていい奴だからな」  もちろんお前もな、という言葉と共に、花咲を撫でていた手とは反対の手が、俺の頭を覆うように乗せられる。すぐに手は離れたが、暫くの間その温かさは残り香のように俺の頭から離れなかった。  そのまま先生と花咲と雑談をしていれば、途中で戸田が乱入して先生に机を投げられそうになり、何度かその行為を繰り返して今日の話し合いは終わった。  俺たちが雑談をしている間に係やメニュー等も決まっていた。道草は食っても、何だかんだきちんと仕事はするのは、戸田の良いところだと思う。  俺が乗り気でないのに気付いていたのか、俺の係は裏方になっていた。戸田や、クラスでも格好いいルックス上位組が接客。花咲のような料理が上手い人は厨房係だ。  なんでホストクラブに厨房係がいるのか疑問に思ったが、決定されたメニューを見て納得した。オムライスやラーメン、スパゲティーなど、何故かメニューがレストランベースのホストクラブになっていたのである。これだけでもホストクラブといっていいのか分からないコンセプトだが、飲み物につけられたあのよく分からない二つ名たちが、更にホストクラブの原型を完膚なきまでにぶち壊していた。どちらかというとメイド喫茶とか、そっちのコンセプトじゃないかこれ。  自分で黒板に書いたメニューを眺めながら、これで聖ちゃんにあーんしてもらえる……! ときらきら輝く目で両手を組む戸田に、流石に一発だけ拳骨を落としておいたのはまた別の話。  裏方の仕事は、衣装の調達や教室内の飾り付け、本番時の配膳などである。接客係も、本番までは暇なので、裏方を手伝うことになった。  何はともあれ、雉学祭に向けて一年E組は動き出した。

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