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 雉学祭に向けての準備が始まってから数日後。大きなトラブルもなく、順調に作業を続けるクラスメイトたちに混じって、俺もメニュー表の作成に取り組んでいた。  キラキラにはしたいけど手作り感がほしい! という戸田の意向に沿い、メニュー表は手書きになった。俺の字はお世辞にも上手いとは言えないので、下書きは字が綺麗な奴に書いてもらったが、いざそれをペンでなぞるとなると、無意識にペン先が震えてしまう。授業中にも見せないほどの集中力で何とか下書き通りにペンを滑らせ、一通りなぞり終えたところで、同じ作業をしていた生徒に声をかけられた。 「それ、苦手? 良かったらそれは俺がやっとくから、買い出し行ってくれる?」  他人にも分かってしまうほどに緊張していたのだろうか。確かに、ペンを握っていた手は汗まみれで、力を入れすぎたためか、親指の付け根が爪の形に凹んでいた。 「悪いな、助かる」  有り難くその申し出を受け入れて、凝り固まった腰を伸ばしながら椅子から立ち上がると、少し遠くで同じように椅子から立ち上がり、体を伸ばす花咲と目が合った。暫し見つめ合い、花咲が一言二言隣にいた生徒に告げて、此方へやって来る。 「ちょっと休憩しよう」 「ああ。ついでに買い出しに行こうかと思ってる」 「あ、僕もいっていい? 生地、見繕いたいんだよね」  断る理由もないので、花咲の言葉に頷く。作業を代わってくれた生徒から買い出しの紙をもらっていると、「調子どうー?」と戸田が手を振りながら近付いてきた。 「まずまずだな。疲れたから休憩ついでに買い出しに行ってくる」 「買い出し? じゃあ俺も……」 「お前はこの場を仕切らないといけないだろ」  案の定一緒に付いて来ようとした戸田に、待ったをかけた。実際、さっきから戸田の所にひっきりなしに生徒たちが相談に来ている。今戸田を連れていけば、作業が止まってしまうかもしれない。 「戸田くん」  言ったそばから、一人の生徒が戸田に声をかけた。花咲に負けず劣らず、一見すると女性と見間違う顔立ちをした生徒だ。花咲と違うのは、その目の大きさだろうか。真ん丸と形容してもいいほどぱっちり開いた目をした花咲と違って、どこか冷たさを覚えるような鋭い目をしている。しかし、戸田に向けられたその目は、心なしか弛んでいるように見えた。 「ん? 松下(まつした)、どしたの?」  戸田に松下と呼ばれたその生徒は、戸田に向かってにこっと笑いかける。話の邪魔にならないように、直ぐに戸田に声をかけた。 「じゃあ、行ってくる」 「あ、うん、気を付けてね!」  手を振る戸田の後ろから、松下が俺たちを見ていた。戸田に向けていた視線とは真逆の、突き刺すような攻撃的な視線だった。

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