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 次なる獲物を探し、視線をゆっくりと動かしていけば、俺の方を見て震えている川部たちがいた。その足元には、血で汚れた地面に横たわる戸田がいる。  求めていた血が、其処にある。 「く、来るな!」  じゃり、と靴の裏が砂利を踏めば、その音に反応してか川部が叫んだ。その声を無視して、戸田に近付こうと歩き出すと、半狂乱になった川部たちが言葉にもならない奇声をあげながら突進してくる。  もう少しでご馳走にありつけるというのに、野暮な奴らだ。  苛つきをぶつけるように、邪魔者を一人ずつ的確に急所を突いて、地面に突っ伏させる。呆気ない。まるで人形だ。呻きながら起き上がろうとする人形の頭を踏みつけ、戸田へ歩を進める。  戸田の頭近くまで来れば、足音が聞こえたのか、薄く目を開けて俺の方を見ようとする戸田。ただ、動くと激痛が走るのだろう、顔を歪ませて呻くその傍にしゃがみ込み、頬に手を当てる。 「ひ、じり、ちゃん……?」 「……しい」 「……?」 「血が、欲しい」  そう言って、戸田の口の端から流れる血を舌で掬った。鉄臭い味が口内に広がる。久々の、最高の味。  戸田は一瞬驚いた顔をして、しかし直ぐにまた顔を歪めた。息を詰める音に、微かに心が踊る。 「……っ」 「もっと」  戸田の後頭部を持って身体を起こさせ、痛みを訴えようとする口を自分のそれで塞いだ。戸田の口の中に舌を入れて、口内に溜まった血を更に啜る。血を体内に取り込む毎に、徐々に落ち着いていく頭が、まるで吸血鬼のようだ、と他人事のように考える。  戸田の肩を掴む自分の右手が、無意識にその肉を裂こうと、布越しに爪を立てた。新たに加わった痛みのためか、戸田が俺の口の中に小さく悲鳴を吐き出す。その事実だけで達してしまいそうな快感を享受し、頬が緩む。  何度も何度も角度を変えながら、口中に広がる鉄をかき集めては、自分の口内へと掬って喉を潤す。やがて、戸田の舌が俺の舌に絡まり出したことに気付き、最後に一通り血を啜って、離れようとした。  が、後頭部をいきなり掴まれ、先程より深く舌が絡まる。 「ふっ、んぅ……!」 「っ……」  緩やかに楽しんでいた俺とは正反対に、荒々しく俺の口内を動き回る戸田の舌。血を貰って満足したのか本能はさっと身を引き、今まで本能に抑えられていた薬の効き目がまた姿を現してくる。 「ふぁ、と、だ」 「……聖ちゃん、まだ勃ってる」 「っは、はぁ、っ……」  漸く口を離したかと思えばそんなことを言う。戸田は息も絶え絶えなまま、同じく息が上がっている俺の自身を布の上から撫でた。 「っあぁ!」 「気持ちいい?」 「……っ、出る、から……ぁ」 「出して。辛いでしょ?」  戸田は俺を膝の上に座らせ、緩んでいたベルトを外し、再度俺の陰茎を外気に晒す。焦らすに焦らされ限界に近いそれは、解放を待ちわびるかのようにひくひくと震えていた。そんな俺の一物を見る戸田の目には、欲情の揺らめき。 「い、いい……一人で、できる」 「そんな誘うような行動して、今さら止めろって? 俺の理性なんか保つはずないでしょ」  やんわりと拒否をすれば、戸田はそう捲し立てて無表情で俺を見る。何を考えているのか分からず、本能さえも感じるほどの、恐れ。  俺の腰を掴む腕に手をかけ、その腕の中から逃げようともがく。 「離せっ……!」 「やだ。一人でヤるのと変わらないから」 「戸田……」 「そんな顔してるとめちゃくちゃに犯すよ」 「っ……」  その言葉に冗談は一ミリも感じられなかった。躊躇した俺の首筋に舌を這わせながら、戸田は自身をゆっくり擦る。 「ぁ……んっ……」 「かわいー声」 「やめっ、も……っ」  最初の頃よりかは幾分か感じる刺激は治まっているものの、体が敏感になっているのには変わりない。快楽の波が、俺を呑み込もうと大きく口を開けている。

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