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「はは、めちゃめちゃ迫力すげえね」
若干青ざめた顔で戸田が言う。その横で、こくこく、と凄い勢いで頷く委員長。首がとれそうで怖い。
やがて、のびていた全員が目を覚ますと、山中以外の三人は店の表の方へ、よたよたと覚束無い足取りで逃げるように走り去っていった。一人残った山中は、外した関節が相当痛むようで、立ち上がることすら出来ないでいる。それでも逃げようとする山中を捕まえて、外した肩を元に戻してやれば、山中は痛みと恐怖で引き攣った顔を悔しそうに歪め、「覚えてろ!」と叫んで肩を押さえながら三人の後を追った。
「……負け犬の遠吠えってこれか」
ぽつりと委員長が溢した言葉に、俺と戸田が同時に笑い出すと、委員長は焦ったような表情になる。何か変なことを言ったのかと不安そうにしていたので、歯に衣着せぬ物言いが気に入った、と伝えておいた。
「っ……ありがと、いいんちょー」
委員長に支えてもらいながら、戸田が立ち上がった。さすがに傷だらけの顔で店に行かせるわけにもいかない。委員長から戸田を受け取り、戸田の代わりに発注をお願いすると、委員長は一瞬不安を浮かべたが、すぐに強い目で頷き、駆け足で店の表の方へ向かった。
戸田の腕を自分の首に回し、戸田の背中に左手を当てて委員長の後を追うように歩き出せば、戸田が天を見上げながら大きく溜め息を吐いた。
「はあ、まーたりっちゃんに怒られる」
「今回も俺のせいだ、すまん」
「いやいや! むしろ調子のっちゃってごめんね! いや、ありがとう!?」
「何がありがとうなんだ」
あたふたと喚く戸田の頭に、左手で軽く手刀を落としておく。いて、と呟いた後、へへっと笑う戸田に、俺も自然に笑みが溢れた。
「にしても、聖ちゃんめちゃめちゃ強いね。俺びびっちゃった」
戸田の言葉で、クラスでは殺人者であることを隠しているのを思い出す。先程までの自分の行動を脳内で反芻し、まずいことしかしていないことに気付いた。
「……あいつらが弱すぎるだけだ」
とりあえずそう返答し、傷に障るからあまり喋るな、と釘を刺しておく。それでも血を吸ったことに対しての追及が来ることを覚悟していたが、戸田は余程弱っていたのか、俺のいうことを素直に聞いて、バスに戻るまで一言も話さなかった。
開いているバスのドアから運転手に声をかけると、運転手は俺たちを見た途端に、ぎょっとした顔になった。病院に行きたい旨を伝えれば、戸田の怪我が余程ひどく見えたのか、焦った様子で了承し、戸田が渡していた外出許可証を見ながら何やら何処かへ電話をかけ始めた。
戸田を運転席の後ろへ座らせて、バスの中を確認する。行きと同じようにバスの最後尾に奴等が固まっていたが、行きと違うのは意気消沈した様子であることだろう。唯一無傷の松下も、バスの入り口にいる俺の姿を認識するとびくり、と身体を震わせて、俺から身を隠すようにバスの座席の上で小さく丸まってしまった。
やがて運転手の電話が終了したと同時に、店の方から委員長が走ってバスに向かってきた。委員長がバスに乗り込むと扉が閉まり、運転手が病院へいく旨のアナウンスを流した。
「発注してきたよ」
俺たちの後ろの席に座って、椅子の背もたれ越しに報告をしてきた委員長に、礼を伝える。
「助かった」
「いいんちょーありがとー……」
戸田の覇気のない声に、委員長は心配そうな顔になった。
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