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「クソ、ここでもない……!」
三階の最後の空き部屋のドアを開けるが、また花咲の姿はなかった。長谷川たちから教えてもらった空き部屋を片っ端からあたっているのだが、数が多すぎて確認するだけでもどんどん時間を削られていく。
今こうしている間に、花咲はどんな仕打ちを受けているか分からない。
俺のせいで。
俺が目を離したせいで。
俺が目を付けられたせいで。
湧き上がる悔しさに、唇をきつく噛んだ。息荒く四階に駆け上がり、まずは一番階段に近い空き部屋の方へ向かおうと足を踏み出したときだった。
「……わらく……!」
「っ!」
廊下に微かに響く誰かの声。何と言っていたかは分からない。聞こえたかどうかも怪しいような、そんな音量。が、絶対にその声の主は花咲だと、そう直感が訴えていた。
声の聞こえた方向は、階段を挟んで反対側。すぐさま方向転換し、空き部屋だと伝えられていた部屋の中で、一番手前にある部屋のドアノブに飛びついて勢いよくドアを開けた。
「花咲っ!!」
カーテンが閉め切られた暗い部屋に、俺が開けたドアから沈みかかった夕日が射し込んで、中の様子を朱く照らす。部屋の奥には、思った通り花咲がいた。
ただし、殆ど全裸に近い格好で両腕を縛られ、男子生徒たちに群がられている状態で、だ。
花咲の太ももを持ちながらその身を押し付けようとする立原に、その横で花咲の身体を押さえ付ける山中。花咲の周りをぐるりと囲む名前も知らない男子生徒たち。そして一人離れたところで腕を組みながら立っている松下。
その部屋にいる全ての視線が、俺に集中する。
「ふ、じわら、くん……」
花咲の安堵した、しかし同時に絶望を感じたような表情を見て、俺の理性はぷつりと切れた。
無言で部屋に足を踏み入れる。それを見て、立原がはっ、と鼻で笑い、残念そうな声色で言った。
「あーあ、あとちょっとで挿れるところだったのに。空気読めよな~藤原クンよお」
その言葉を無視して、俺はずかずかと部屋の奥へと歩を進める。立原は無視されたことに苛ついたのか、顔を歪めて花咲の太ももを荒々しく手放し、汚い一物を仕舞って俺の方へ向き直り、二歩、三歩と距離を詰めてきた。
「テメェ、無視するたぁどういうことだ」
立原に、帰りのバス内で見せていた弱々しい姿は感じられない。花咲という人質がいることで、優位に立っていると思い込んでいるのだろう。全く、単純すぎる。
目線を立原から外すことなく、立原の目の前で立ち止まる。
「な、何だ? やんのか?」
威圧感に怯んだ様子の立原が、後ずさりしながら言った。
弱いくせに。卑怯で汚い人間のくせに。
綺麗な花咲を、汚した。
こいつらが、俺の友達を。
こんな屑な奴らが、俺の希望を。
汚した。潰した。壊した。
抑えきれない、いや、抑える必要のない怒りの火で満ちた瞳で、視界のど真ん中に立原を見据えた。そして、響きだけで地獄へ突き落とさんとする重低音が、腹の底から喉へとせり上がる。
「ああ、殺ってやる」
お前らが犯した過ちの重さを、その身に徹底的に叩き込んでやる。
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