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 びく、と一瞬体を硬直させた立原の隙を突き、素早くしゃがみこんで立原の足を払う。 「なっ……!?」  驚いて目を見開く立原の体は、一瞬だけ宙に浮き、そのまま重力に従って床へと仰向けに倒れ込んだ。 「立原!」 「近付くな。お前も殺されたいか」  慌てて近寄ろうとした山中を一瞥し、そう吐き捨てれば、山中はその声色に本能的な恐怖を感じたのか、立原と同様にびくり、と体を震わせて足を止める。山中の方から足音が消えたのを確認し、急いで立ち上がろうとする立原の腹に足を乗せて床へと戻し、その上に跨がった。 「どんな死に方がいいか選ばせてやるよ。窒息死か? ああ、テメェなら腹上死がいいか?」 「ふ、ふざけるな! どけよ!」  俺の言葉を冗談だと思っているのか、ばたばたと無様に暴れ出す立原。その首を右手で掴んで床に押し付けて、騒ぐな、と唸れば、呻き声と共に立原の動きが止まる。 「十秒以内に決めろ。過ぎたら勝手に決める」 「っじょ、冗談は止めろよ……」 「ハッ、めでたい頭だな。テメェらは知らないだろうがな、俺は──」  そこで一旦言葉を切って、花咲の方へ視線を向ける。体液で汚れた下半身。やつれた白い顔に這う涙の痕。今すぐにでもこいつらを皆殺しにしてしまいたい感情を、必死で押し殺す。花咲の目蓋が閉じているのを確認して、再び立原へと視線を戻した。 「──数えきれないくらいの人数、殺してきたんだよ」  途端に周りの空気が凍る。立原は目を見開いて顔を歪め、口元を震わせながら俺を凝視している。周りにいる他の奴らも、怯えを孕んだ表情で俺を見ていた。恐怖で支配された空間に、沈黙が下りる。  一番最初に口を開いたのは山中だった。 「そ、それが本当ならSクラスのはずじゃん!」 「理事長に言え。俺をEクラスに入れたのはあいつだ」 「何のために……」 「さあな。それも理事長に聞け」  淡々と返すと、山中はそれ以上何も言わなくなった。再び沈黙が戻ってきたことを感じて、視線をもう一度立原に向ける。 「怖いか、俺が」  端的に問う。立原は開いていた口を慌てて閉じ、一度喉仏を上下させ、眉間に皺を寄せて俺を睨み付けた。しかし、僅かに口元の震えは残ったままだ。 「っ怖い訳、あるか!」 「そうか」  その時、ふと立原の太腿辺りに違和感を感じた。 「テメェが俺を殺る前に俺が殺してやるっ!」  立原はそう言うと、何かを握った右手を俺に向かって突き出してきた。咄嗟に顔を右に動かせば、先程まで顔面があった箇所に立原の右手が突っ込んでくる。そのまま立原から飛び退くと、立原はへへ、と裏返った声を出しながらゆっくりと立ち上がった。ふらり、と揺れるその手に握られていたのは、銀に光る小型ナイフ。先程感じた違和感は、ナイフをポケットから出した感触か。  しかし、何故ナイフを所持しているのだろうか。凶器になりうるものはこの学園に持っては入れないし、唯一支給されている包丁も、キッチンに繋がれていて外すことはできないはずだ。  俺が怪訝な顔をしているのが分かったのか、立原は口角を上げた。 「これくらい持ち込むのは造作ないことなんだよ!」 「……それで俺を殺すつもりか?」 「そうだ。怖いかよ、あ゛あ?」  ドスの利いた声で立原が俺に問い掛けてくる。別に凶器など、あってもなくても同じだ。俺はただ、標的を殺すのみ。 「全くだ」  一言だけ返した直後、小さくえ、と溢した立原の顔面に、ぎゅっときつく握り締めた拳を叩き込んだ。

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