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「とにかく、お前はたった今からSクラスだ。寮の部屋も変わるから、荷物片付けて来い」  その言葉にぎょっとして、慌てて会長に抗議する。 「流石に今からなんて、性急すぎるだろ!」 「いつ暴れ出すか分からねえ奴を、Eクラスのやつと一緒にしておけねえことくらい分かんねえのか?」  会長の正論に、うっ、と言葉に詰まった。花咲が戻ってきたとして、殺人欲求に負けて同じクラスの生徒を殺した俺と同室のままなんて、怖くて堪らないだろう。そんな思いをさせないためにも、先に俺から離れておくべきなのかもしれない。  目を伏せて言葉を唾と共に呑み込み、そうだな、と小さく呟けば、会長は満足げな表情を浮かべた。 「じゃあ行くぞ」  そう言いながら、会長がソファーから腰を上げる。 「あんたも来るのか?」 「当たり前だろ、逃げられちゃ敵わねえからな」  監視役ということか。この学園に俺が逃げられる場所などないし、そもそも逃げる気も毛頭ないのだが、部屋に戻れば決心が鈍ってしまうかもしれないと思い、自分の退路を断つために何も言わないでおいた。  会長の後に続いて生徒会室を出る。廊下の窓から見える景色は教室から見える景色と同じようで少し違っていた。階段付近に差し掛かった際に、五階、と書いてあるプレートを見つけ、景色に差異があった理由を悟る。  いつもの階段を一階分多く降りて、寮へ向かう。ちょうど生徒たちが学校から寮へと帰る時間帯で、下校中の生徒たちが俺たちを見てひそひそと話していた。  殺人者だ、と距離的に聞こえて来るはずのない声が脳内に響いてくる。それが引き金になり、頭の中が、凄まじい勢いで『人殺し』の文字で真っ黒に塗り潰されていく。 「っ……は……、っうぇ……」  あまりにも強烈な感情に、空っぽの胃から吐き気が込み上げて、寮のエントランス部分を通過した瞬間、近くの壁に手をついてしゃがみこんだ。 「お、おい……」 「……っだい、じょうぶ、……ちょっとだけ、待って、くれ」  背後からかけられた焦ったような声色にそう伝え、舌に触れた酸っぱい液体を何度も呑み込んで体内へと戻していく。荒い息を何度も繰り返し、酸素を取り入れた。  耐えろ、耐えろ。ここで弱れば、本能の思う壺だ。  どれぐらいそうしていたか、頭の中の文字も薄れ幾分か気分も良くなった頃、はあ、と深い息をゆっくりと立ち上がれば、俺の横で壁に凭れかかっていた会長の目が俺に向くのが分かった。何も言わずに俺に向けたその視線には、心配の色が乗っている。 「……もう、大丈夫だ」 「……行くぞ」  歩き出した会長の後ろを無言で追いかける。前だけ見ていれば、周りの視線は然程気にならなくなった。  ようやく部屋へと辿り着き、カードキーで鍵を開けて中へ入る。律儀に鍵は閉めていてくれたようだ。  俺に続けて入ってきた会長がドアを閉めた瞬間、強張っていた肩から力が抜けた。気にならないと思ってはいたが、無意識に構えてしまっていたらしい。  「早く荷物まとめろよ」 「分かってる」  息つく暇もなく会長に急かされ、仕方なく自室へ向かい、荷物をまとめ始める。個人の荷物は少なかったので、すぐに荷造りは終わった。荷物を詰めたバッグを持って玄関に向かうと、会長が壁に凭れ掛かって待っていた。 「待たせたな」 「早ぇな。それだけか?」 「元から荷物が少ないんだ」  そうか、と会長は壁から離れて、外に出る。俺も後から続いて外に出て、ドアを閉めようとした。  

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