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「……来たな」  銀色の髪を靡かせる会長を見て、自然と眉間に皺が寄る。その皺が上へと動いたのは、会長の後ろに続く人影を認識したからだった。会長を除いて、五、六人ほどが列を成している。会長のすぐ後ろに居るのは金髪の生徒で、周りよりも身長が高く、一人だけ目印のように頭が出ていた。その光景に何故か既視感を感じて、俺は必死にその既視感に繋がる記憶を手繰り寄せる。  あれはいつだったか。確か花咲がいて、花咲が差した指の先を見て──。  あともう少しで思い出せそうなタイミングで、金髪の生徒に話しかけていた会長が、怪訝な顔で此方を見た。廊下に居る筈のない俺を見て、会長は少し離れたところからでも分かるくらいに目を見開く。顔からはみるみるうちに血の気が失せ、ぽっかりと開いた口は、なんで、と動いたように見えた。 「ち、違うんです会長様! これは……!」  金髪の生徒へと向けて放たれたその言葉を聞いた瞬間、脳裏に鮮明な映像が浮かび上がった。  俺がこの学園に来た日。夜の食堂。花咲たちのご飯を食べている最中に突如響き渡った黄色い歓声。その歓声の中心にいた、金髪の長身の生徒。 『あの不良さんたちみんな生徒会役員だから』  あのときの花咲の言葉と、今聞こえてきた言葉を合わせれば、この金髪の生徒が、この学園の生徒会会長だということになる。  じゃあ、この銀髪は一体何者なんだ。  慌てふためく銀髪の生徒を押し退けて、本物の会長が俺の方へと近付いてくる。端正な顔にはほんのりと笑みが浮かんでいるが、その実俺を視界に入れているであろう目は、感情が読み取れないほどの闇に沈んでいた。 「お前が会長なのか」  すぐそこまで来ていた会長が、俺の言葉に足を止める。 「……本当に知らないんだね」  会長はそう呟くと、ふ、と鼻にかかったような笑い声を溢した。 「そいつは一体誰だ」  俺が銀髪の生徒を指差しながら問えば、会長ではなく、後ろから追いかけてきた銀髪の生徒自身が口を開いた。 「お、俺は会長様の親衛隊隊長だ」  親衛隊、という言葉で真っ先に浮かんだのは、花咲が言っていた『制裁』という単語だった。ただ、花咲の説明では、生徒会に近づくと制裁があるという話だったはずだ。俺はこの金髪の会長のことも知らないくらい、生徒会からは離れているはず。なのに、何故。  俺が眉を潜めながら考えを巡らせていると、会長は微笑みを浮かべながら、銀髪の生徒を側に手招きして話し掛けた。 「水野(みずの)くん」 「は、はいっ!」  水野と呼ばれた偽物の会長は、運動部も真っ青な大声で返事をする。 「俺が言ったこと、覚えてる?」 「藤原聖を隔離しろ……です、よね……」  尻窄みになっていく水野の言葉に、うんうん、と頷く会長。 「じゃあどうして」  会長が俺を指差す。 「こいつが外に出てるのかな?」  その言葉が放たれた瞬間、周りの温度が急激に下がった。

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