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 微笑みはそのままだが、確実に会長が纏う雰囲気が変化したのを感じ取る。放たれた怒りの感情が、異様に冷えた風に乗って伝わってきた。会長のすぐ側に居た水野は、がくがくと顎を震えさせ、半ば倒れ込むように膝を床につけた。 「か、会長様! もう一度だけ、もう一度だけチャンスを下さい!」  必死にそう叫びながら、会長に向かって頭を下ろす水野。会長は、微笑みを浮かべたままそれを見下ろし、弧を描いている唇を動かす。 「俺は今までにいっぱいチャンスをあげたよ?」 「承知しております……! ですがあと一度だけ……!」  震える声を出しながら、水野は額を床に擦り付けた。  目の前の光景は、俺が理解できる範疇を越えている。同じ学園の生徒同士で、これほどまでにカーストの違いが生まれるものだろうか。会長というのは、そんなに偉いものなのか。犯した罪の重さが重ければ重いほど、自分が強いと勘違いしているような哀れな奴が。 「仕方ないなあ」  そう言いながら、会長は未だに土下座をしている水野の前にしゃがみ込んだ。 「顔を上げて?」  水野が言葉に従って顔を上げる。水野は、突然目の前に現れた会長の顔を見て、少し驚いたような仕草を見せた。 「水野くんさあ」 「は、はい!」  会長が優しい声色で水野の名前を呼ぶと、水野の表情が期待に満ちていく。それを見て会長は一度大きく口角を上げてゆっくりと目を瞑り、その目がもう一度開いた瞬間、顔のキャンバスをリセットしたかのように真顔になった。 「もう要らないよ」  水野の動きが止まった。表情筋が誤作動を起こしたのか、水野の顔は先程までの期待を残したまま絶望の感情に歪み、異様な表情となっている。  動かない水野に興味を失ったのか、はあ、と溜め息を吐きながら会長が立ち上がる。 「こいつ好きにしていいよ。後始末だけよろしく」  先程まで会長の周りを取り巻いていた生徒たちに声をかけた。それと同時に生徒たちが一斉に水野に群がる。 「っ! や、止めろお前ら! 助けてください、会長様っ!」  自分の置かれた状況を把握した水野の懇願する声が廊下に響き渡る。だが、会長はその声が聞こえないかのように、眉一つ動かさず、見向きもしない。  少し遅れて、助けを求める水野の声に、生地が破れる音が混ざり始めた。  止めろ、その音は。 「や、ぁ……、やめ……っ」  甘い声を背後から響かせた会長が俺の方へ更に歩を進め、俺の目の前に立ちはだかった。会長を睨みつけながらも、意識はその背後に居る水野の方へと向かう。 「その鉄格子、君が壊したの?」 「……ああ」  低く唸るように答えると、会長はふうん、と再び唇で弧を描いた。

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