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「やっぱりこんな壊れかけの鉄格子くらい、君なら簡単に壊せるよね」
楽しそうに呟く会長の言葉に、無意識に眉間の皺がさらに深くなった。こいつ、ここの鉄格子が壊れかけていることを知っていたのか。その上で、恐らく水野に俺をここに入れるように指示したのだろう。
「お前、分かってて……」
「ああ、そこの水野くん、最近鬱陶しくてさあ。使ってごめんね?」
会長は人当たりの良い笑顔を浮かべる。吐かれた言葉と表情がちぐはぐで、得体の知れない悪寒が背筋にぞわ、と走った。
こいつは、今までの奴らと違う。人を貶めるのに何の躊躇もない。笑顔の仮面に覆われた本当の顔を想像するだけで、吐き気がした。
「ああっ……、ひぁ……ゃ……っ!」
そんなやり取りの間にも聞こえ続けていた水野の嬌声が、一段と高くなる。
「……クソッ!」
これ以上は耐えきれない。
会長の横を走り抜け、水野に群がる生徒の一人の肩を掴んで引っ張り出す。その生徒が俺の方を向いた瞬間に、顔を殴り飛ばした。
「ぐぁっ……!」
殴られた生徒は廊下の壁にぶつかって崩れ落ちる。何事か、と水野に群がっていた生徒たちが一気に臨戦態勢に入った。
生徒たちに服を剥がれ床に倒されていた水野は、荒い息を繰り返しながら、放心状態なのか虚ろな目を天へと向けている。その肌は上気し、汗なのか体液なのかよく分からない液体で、てらてらと光っている。いつかの花咲を見ているようで、堪えきれない怒りが食い縛った歯をぎり、と鳴らした。
「そいつから離れろ」
地を這うような声で脅しをかける。生徒たちは皆一様にびく、と体を震わせ、俺が近付くのと同じだけ後退り、水野から距離を取っていった。
視線で生徒たちを威嚇しながら水野の側まで辿り着き、ほとんど脱がされかけていた制服を着させてやる。ワイシャツのボタンが何個か取れていたため、上は前を交差させるだけに留まった。
「藤原くん、何してるのかな?」
会長の声が俺の背中にかかった。ぞっとするほど冷たい声。大抵の人間なら、本能的な恐ろしさに体が疎んでしまうだろう。ある程度そう言った奴らに慣れている俺でさえ、これほどまでに恐怖を感じるのは相当だ。
「……胸糞悪いんだよ」
立ち上がりながら会長の方を振り返る。会長は相変わらず微笑んでいたが、目だけは笑っていなかった。
「何だって?」
「お前らのやり方、胸糞悪い」
「やり方って……何?」
「いいから失せろ。吐き気がする」
唾を吐き捨てる勢いで告げ、会長に思いきり視線を突き刺せば、会長は、ははっ、と顔色一つ変えず笑い声を漏らした。
「吐き気がする、ね」
そう溢した次の瞬間、唐突に会長の顔から笑顔の仮面が外れ、辛うじて人間らしさを保っていた表情がなくなる。
「なら吐いてみろよ?」
口調が、変わった。
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