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「お前……吸血鬼とかその類いじゃねえだろうな」
俺の行動が、会長には不気味に映ったらしい。そう呟いたあと、会長の喉仏が上下に動いた。顔色も若干だが白くなっているような気がする。そこから見える、恐れの感情。こんな奴でも恐れを感じるのか。
「そんなファンタジーめいた話を言うような奴だとは思わなかったな」
「……言ってみただけだ」
舌打ちをしてアイスピックを構える会長を見据え、俺は水野を背後に隠すために片手で引き寄せようとする。だが、水野はそんな俺の手を払いのけて、逆に俺の身体を後ろへと押して、会長との間に身体を割り込ませた。
「……会長様、俺は貴方の傍から離れます。だから、それを仕舞ってください」
震えてはいるが、芯を持った声が会長へと投げられる。会長はその言葉にぴく、と眉を動かした。
「退け」
「嫌です」
水野は、凶悪な視線をこれでもかと寄越してくる会長と向かい合っている。その後ろで、俺はいつ会長が動き出してもいいように全意識を会長に集中させた。両者の無言の睨み合いは暫く続いたが、やがて会長が溜め息を吐いてアイスピックを持った腕を下ろした。
「面倒臭いからここらで止めておいてあげる」
口調は元に戻っていた。凍てつくような雰囲気も既に消えている。会長は、血で汚れたアイスピックをシャツの裾で拭ってからポケットに入れ、踵を返してエレベーターの部屋の方へ去っていった。その部屋の扉が閉まったのを確認してから、力が入りっぱなしだった身体を漸く緩める。
会長に付いて来た奴らは、全員まだ気を失ったまま廊下に転がっていた。恐らくもう暫くはこの状態だろう。その間にここを抜け出しておきたい。
廊下の真ん中に倒れている生徒は通行の邪魔なので、会長が去っても動こうとしない水野の横を通り、申し訳ないが足でその体を端へと寄せながら、背後の水野に声をかけた。
「水野、大丈夫か?」
「……あ、ああのさ、ふふふ藤原聖!」
俺の問いに対しての答えは来ず、代わりにどもりながら名前を呼ばれる。振り返れば、水野は眉間に皺を寄せて怒ったような表情を貼り付けていた。先ほどの行為の尋問だろうか、と予想しながら、水野に聞き返す。
「ん?」
「おおお俺、お前と友達になりたい!」
「は……?」
予想の斜め上へジェット機並みのスピードで突っ込んでいった言葉に、目が点になる。しかし水野本人は至って真面目らしく、顔を赤くして必死に俺に詰め寄ってきた。
「なあ、駄目か!?」
「っと、とりあえず落ち着け、な?」
体を後ろへ逃がしつつ、水野の顔の前に両手を突き出して言えば、水野はむ、と口を結んで大人しくなった。
よし、それでどうすればいいんだ。いきなりすぎて意味が分からない。そもそも友達って宣言するものだったのか。いやいや宣言しないだろ、と自問自答して心の中で頭を振る。
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