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 ◆ 「──……さい!」 「──……だろ」  争うような声が聞こえて、俺は重たい目蓋を押し上げた。寝転んだまま真っ白な天井を見上げて、暫し脳の覚醒を待つ。  ……ん? 天井? 寝転んだ?  一気に記憶との食い違いが発生して、寝起きの頭は混乱した。確か俺は廊下で座り込んで、水野の肩を借りて寝たはずだ。  俺は一体、どこにいるんだ?  そう思った瞬間、 「止めてくださいっ!」 という怒鳴り声と共に、どさ、と何かが倒れる音がすぐ近くで聞こえた。驚いてやけに重い顔を動かして音の発生源を見ると、水野が赤髪に床へと押し倒されていた。 「あっ……」  思わず出た声に、水野が反応して此方を見る。 「ふ、藤原! 逃げろっ!」 「絶対に逃げんなよ」  必死に叫ぶ水野の上で、赤髪が俺を刺すように凝視し、低く唸る。普段ならその赤に反応して現れている筈の衝動は、何かに阻まれているのか表へ出てこない。何がどうなっているのか。 「お前も邪魔をするな」 「友達を危ない目に遭わせられないでしょう!」  赤髪が水野にその鋭い視線を移せば、水野は赤髪に唾を吐く勢いでそう叫ぶ。早速俺は水野の友達になっているらしい。  にしても、この状況は──。 「俺……、邪魔か?」 「ち、違う! そうじゃなくて!」 「こいつが邪魔なんだ。お前はもう逃がさないからな」   バタバタと暴れながら口を開く水野の手首に、机の上にあったネクタイを取って巻き付けながら、赤髪は再び俺の方へ目を動かした。視線がぶつかった瞬間、その視線がまるで蜘蛛の糸のように、俺の身体中に巻き付いてくるような感覚を覚える。 「っ……何処に……連れて、きやがった」 「俺の部屋だ」  糸を言葉で払うように声に出すと、その呟きに赤髪がそう答える。赤髪の部屋に連れ去られてきたということだろうか。  冗談じゃない。一番危険な奴の根城に拉致されたなんて、どう考えたって絶望しかない。今は悠長に考えている暇はない。とりあえず水野の言う通り、この場から逃げるために体を起こそうとした。 「……? 動……かない……?」  自分の意思と反して、体は鈍りのように重く動く気配を見せない。そんな俺の様子を、楽しそうに赤髪は見ている。 「少し盛らせてもらったぞ」 「は……!?」 「こうでもしないとお前、逃げるだろ?」 「当たり、前だろ……!」  口を動かすことすら億劫になるほどの怠さ。にや、と大きく口角を上げた赤髪に、背中に悪寒がぞわ、と走った。反射的に辛うじて動く首を使い、反対側へと顔の向きを変えて視界から赤髪を消すと、一拍遅れていきなり背中に当たっていた何かが大きく沈んだ。それと同時に、影が俺へと覆い被さる。

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