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 足に感じ慣れない柔らかな感触を感じた直後、ドゴ、という鈍い音と息を詰める声が同時に耳に入ってくる。何事かと足の方を見れば、振り上げた足が赤髪の股間へとめり込んでいた。力が上手く入らないならちょっとやそっとでは動かないだろうと思っていたが、どうやら八割程度くらいは力が入るようになっていたらしい。  ということは、俺は今ほぼ全力で赤髪の息子を蹴り上げた訳で。蹴られた衝撃からか、俺の肩口から少し顔をあげている赤髪の横顔を恐る恐る覗くと、肌は青ざめ、目をこれでもかと見開いて固まっていた。 「あ……えっと、その、す、すまん」  一瞬で驚くほど表情が変わった赤髪に、思わず謝る。悪いのは勿論赤髪だが、男としてどれほどの苦しみかは、痛いほど分かる。  力が入るかどうか再確認するためにゆっくり体を起こすと、俺の上に乗っていた赤髪の体がぐらりと傾いで、ドスン、と重たい音を伴って床に落ちた。その刺激によって止まっていた時が動き出したらしく、端正な顔が一気に苦痛に歪む。 「──~~っ!」  声にならない叫びを上げる赤髪。口は岸に打ち上げられた魚のように、ぱくぱくと酸素を求めて動いている。  本当に悪かった。反省してる。でも、元はと言えばお前が悪いんだからな。  心の中で合掌して、赤髪の痛みが伝搬したように顔を歪ませる水野の足と腕の拘束を外し、締め付けられていたせいか、若干赤みがかった手首を掴んだ。 「逃げるぞ」 「え、ちょっ!」  いきなり腕を掴まれて驚く水野を引っ張って、玄関まで走る。水野は赤髪を気にして何度も振り返っていたが、やがて自分の意志で足を動かし始めた。  やけに凝った装飾の玄関のドアを開けて、廊下へと避難する。ここは突き当たりの部屋らしく、進むべき道は一本しかない。とにかくまずは距離を取らねばと、また水野の腕を引きながら走り出した。  さて、どこに──。 「あ……」  逃げる場所を考えながら走っていた最中、水野が唐突に声を零して立ち止まった。引いていた腕も同じく止まったため、突然ブレーキを掛けられた俺の体はバランスを崩した。倒れないよう足を踏ん張って、何とか体勢を元に戻す。そうして顔を上げた俺の視界には、水野が立ち止まった理由が映っていた。 「君たちは馬鹿だよね、わざわざ敵陣に飛び込んでくるなんてさ」  廊下の先に、俺たちの進路を塞ぐように会長が立っていた。呆れたような口調でそう言った会長の周りには、前回と同じように会長の駒使いらしき生徒たちがいた。違うのは、前回よりも体格の良い生徒であるというところだろうか。文字通り周りを固めてきたらしい。 「どうやってここに来たの」  先程よりもワントーン低い声が放たれる。びくり、と体を異様に震わせた水野に疑問を抱きつつ、その問いに返答した。 「……知らない間に連れて来られただけだ」 「へえ……誰に?」  会長がすう、と目を細めた。

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