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「赤い髪の……」  そこまで言って、赤髪の名前を知らないことに今更気付く。どう伝えようかと言葉を探していると、会長は俺たちから外した視線をすっかり暗くなった景色に向けた。 「……俺が言ったからかな」  苦虫を噛み潰した表情で小さく呟かれた言葉は、俺にはよく聞こえなかった。はあ、と溜め息を吐いて、再び会長の目が俺たちを捉える。 「ま、ちょっと計画は狂ったけど、大方問題ないね」  口元に緩やかな曲線を描きながら、会長がそう告げる。周りの空気が怪しげに蠢き始め、言い知れない恐怖を感じて無意識に後退った。水野は先程から会長を直視したまま固まっていて、動く様子はない。 「計画ってなんだ」 「ああ、気にしなくてもいいよ。じきに分かると思うし」 「……退け」  場の空気に呑み込まれまいと会長を睨むと、さらに曲線が丸くなっていく。 「先輩にそんな口聞いちゃうんだ?」 「……退いてください」 「嫌だね。退いたら逃げるでしょ?」  数秒前の微笑はふつり、と消え、会長の顔から無の感情しか読み取れなくなった。ころころと表情が変わる奴だ。その変化がサインなのか、会長の周りの生徒たちがじわじわと俺たちの方へ寄ってくる。 「さっきは出られるようにしたけど、今回はそうはいかないから覚悟してね」 「今回って……」  予想はしていたが、また閉じ込めるつもりか。 「嫌そうだね、隔離されるの」  眉間に皺を寄せた俺の表情の変化に気付いたのか、会長が目を細めて言った。 「……好きな奴なんかいないと思いますが」 「そりゃごもっとも」  今度は楽しそうな笑みを浮かべながら、会長がわざとらしく肩をすくめる。さて、と一息置いて、会長は今か今かと指示を待ち焦がれている生徒たちに言い放った。 「あいつらを捕まえて」 「っ!」  反射的に振り返って会長たちと反対方向に逃げようとしたが、俺の逃走を邪魔する何かにぶつかり、先に進むことは出来なかった。 「い……っ!」 「ったく、狙うところ考えろよお前」  眉を顰めた赤髪に、腕を強く掴まれる。いつの間に復活してたんだこいつ。  赤髪に捕まって止まってしまった俺と、後ろから来る生徒たちとの距離がどんどん縮まってくる。水野は恐怖からか会長から目を離せないようで、赤髪の少し後ろで青白い顔をしたままその場に縫い付けられていた。 「離せ!」  獣が威嚇するように唸るが、赤髪はどこ吹く風だ。それどころか、射殺すが如く視線を向けている筈の俺の目を見て、赤髪は口角をぐい、と持ち上げた。その口から、はは、と小さく笑い声さえ漏れてくる。 「健吾(けんご)、そのまま捕まえておいてね?」 「はいはい」  会長の言葉にそう返答した赤髪は、真っ赤な舌を自分の唇に右から左へと這わせ、さらにその笑みを深くした。

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