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 このままでは何をされるか分からない。なんとか赤髪の手から抜け出そうと払うように腕を動かせば、更にきつく掴まれて俺の腕が悲鳴を上げた。 「ぐっ……!」 「……その顔、そそるな」 「っ、いっ……!」  赤髪に意識を取られていると、後ろから他の生徒たちによってもう片方の腕の自由も奪われる。そのまま両手首を背中の方で何かで縛られ、一際がたいの良い生徒に髪の毛を乱暴に掴まれて、無理矢理会長の前に座らされた。  せめてもの抵抗で会長を睨みつけるが、焼け石に水状態だ。会長は至極楽しそうに指を顎の下に置いて、その高身長を見せつけるように俺を見下ろした。 「いい眺めだね」 「黙れ……!」 「監獄に入れてきて。俺は水野くんにお仕置きするから」  その言葉に後ろを振り向くと、今まで固まっていた水野の肩がびくんと震えたのが見えた。逃げろ、と咄嗟に声をかけようとしたが、生徒たちは強引に会長が邪魔をした方向へと引っ張っていく。赤髪は先程の笑みを顔に貼り付けたまま、俺たちの後ろに着いてきていた。  このままだと、水野と会長だけが廊下に取り残されることになる。そこで、会長が持っていたあのアイスピックのことを思い出す。  まさか水野を殺す気じゃないだろうか。 「くそ、離せ!」  絡み付く腕を離そうと身を捩って暴れると、突然の動きに驚いたのか俺の腕を掴んでいた生徒ちちの拘束が一瞬緩む。その隙を突いて手近にいた一人に体当たりをかまそうとした瞬間、後ろから伸びてきた手に、服の上からいきなり自身を掴まれた。 「うぁっ……!」 「暴れるな。ここで突っ込まれたいのか?」  急所への暴力に顔を歪める俺の耳元で、赤髪がそう囁く。 「ふざけるな……!」 「……お前、その顔煽ってるだろ?」  舌舐めずりをした赤髪が、そのまま俺自身を揉もうとする。だが、俺の腕を掴み直した生徒が、赤髪の手を俺自身から優しく離した。 「今は会長様の命令が優先です。この場ではお控えください」 「向こうに着いたらいいのか?」 「……会長のお許しが出れば」  会長のお許しよりも俺の意思を尊重しろ。 「俺は男相手に盛る趣味はない」 「テメェのことなんかどうでもいいんだよ」  俺が抗議の声をあげれば、赤髪を諭していた生徒がゴミを見るような目で俺へと吐き捨てる。  どうでもいいならさっさと俺を解放しろよ。  そう言い放ってやりたいが、そんなことを言ったところで解放されるわけもない。  俺が暴れたことに警戒したのか、生徒たちの拘束は一段と厳しくなった。痕が残るのではないかと思うくらいに腕を掴んでいる手に力を入れられ、痛覚がびりびりと信号を脳に伝えてくる。  半ば引き摺られるようにしてエレベーターのある部屋に押し込まれる。やはり殺風景な部屋のど真ん中にエレベーターだけがある光景は、一度見ていても少し呆気にとられてしまう。 「ほら、入れ」  そう言われて、ドアが開いたエレベーターの中に連れ込まれる。最後に赤髪もエレベーターへと乗り込んで、外界を遮断するようにドアが閉まった。

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