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動き出したエレベータの駆動音がやけに大きく聞こえる程の静寂を破ったのは、赤髪だった。
「あいつお仕置きか、可哀想にな」
まるで他人事のように──赤髪からすれば実際他人事なのだろうが──そう呟いた赤髪に瞬間的に怒りが込み上げてくる。噛み付きたくなる衝動をすんでの所で抑え、唇を噛みながら赤髪に訊ねる。
「あいつは水野に何をするつもりなんだ?」
「詳しいことは俺も知らないが、まあ無傷では帰ってこれないだろうな」
「──……っ!」
縛られたままの拳に無意識に力が入り、爪が掌の肉に食い込む。その痛みが沸騰しかかった頭に鎮静作用として働いた。冷静になればなるほど、自分を責める方へと思考が傾いていく。
俺のせいだ。俺のせいで、また他人が犠牲になる。もうこれ以上、自分のせいで他人が傷つくのは見たくないのに。
ぎり、と奥歯が擦れた瞬間に、エレベーターが六階に着いたことを知らせる音を鳴らした。
「出ろ」
「っつ……」
生徒たちに背中を乱暴に押され、まだ開いている途中のドアにぶつかりそうになりながら、エレベーターの外へと出される。そのまま部屋から廊下に出れば、夜になって一段と物々しい雰囲気を醸し出す監獄が、俺を誘うように佇んでいた。
縛られている手首ごと体を押され、廊下を進んでいく。手綱を引くように強制的に止められたのは、俺が閉じ込められていた部屋の隣だった。生徒の一人がその部屋の鍵を開けている間にちら、と隣へ目をやると、昼間に入れられていた部屋の窓の前には、俺が壊した鉄格子がそのままになっていた。
「今度は逃げられねえからな」
俺が鉄格子を見ていたのに気付いたのか、手首を掴んでいる生徒が背後から脅すようにそう告げてくる。それと同時に、ガチャ、と自由を奪う鍵の音が聞こえた。
「入れ」
言うが早いか、半ば突き飛ばされるようにして、生徒たちに部屋の中に押し込められる。転びそうになった体を立て直して咄嗟に振り返ると、視界いっぱいに赤髪の姿があった。そして微かに赤髪の隙間から覗くドアが、重たい音を伴って閉じた。その瞬間、鉄製の扉は俺を逃がさないための壁へと姿を変える。
「ヤってもいいんだよな?」
赤髪は俺を欲を孕んだ目で見つめながら外にいる生徒たちに訊いた。
「……お許しは出てませんけど、ほどほどになら」
そんな声が外から返される。にぃ、と不気味な笑みを浮かべた赤髪が、俺の方に一歩足を踏み出した。瞬間的に身の危険を感じ、一歩足を引きながら臨戦態勢を取りつつ口を開く。
「お前なんかとヤる訳ないだろ」
「どうだか。溜まってるだろ? 狂うくらいに気持ち良くしてやるよ」
「お断りだ」
ゆっくりと近づいてくる赤髪から逃げるように靴のまま後退った。本能的な危機感に、冷や汗が俺の頬を伝う。
どうすればいい。どこに逃げれば。
「そんなに逃げんなよ」
「じゃあお前が今すぐどこかに消えろ」
「ヤれなくなるだろ」
「ヤらせるつもりなんてない」
そんな会話の間にも、俺は徐々に部屋の奥へと追い詰められる。もう一歩、もう一歩と下がったとき、背中に固い衝撃を感じて、ひゅ、と息が詰まった。
壁に、背がついたのだ。
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