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「あっ──……」
目を開けると、虚空に向かって伸ばした手が見えた。先程までの子供の手ではなく、骨ばったいつも見ている手。手首の辺りには、薄暗い部屋でも認識できるほどの鬱血痕が細く巻き付いていた。
伸ばしていた手を眼前に翳して暫し呆然とする。脳内の整理がつき、意識がはっきりしてくると、下半身、特に腰と尻の孔に痛みを覚えた。
「っつ……」
それによって、気を失う前の悪夢が蘇る。
抵抗らしい抵抗も出来ずに、同性である男に辱められ、更にはその辱しめによって理不尽に快感を引きずり出された。その証拠に、外気に晒されている腹部には、自分が壊れた喉で嬌声をあげながら放った欲望が飛び散り、白い跡を残している。
堪らなく悔しくて、腫れぼったい目から涙が出そうになるのを堪えながら、あちらこちらが痛む体を起こす。
「……そうか、監獄か……」
目に映るのは殺風景な部屋で、必要最低限のものしか置かれていない。いつも過ごしていた部屋と天と地ほどの差がある。
体がべとついて気持ち悪い。殆ど脱げかけているズボンと下着から足を抜いて、そのまま床へと足を下ろし、ベッドを支えにして立ち上がる。すると、後孔から何かがつぅー、と太腿を伝って垂れた。
「え……」
慌てて指で掬って確認すると、白い粘液だった。一瞬何か病気か、と思って、赤髪に中に出されたことを思い出す。
「……っ」
唇を噛み締めて、垂れる粘液も気にせず、壁やドアに身体をぶつけながらワイシャツを着たままバスルームに駆け込む。思いっきりレバーを捻って、上から降ってくる熱いシャワーを浴びて体を流していると、目から別の熱い液体が流れ出した。
「……っ、くっ……」
一度流れ出すと、それは堰を切ったようにぶわっと溢れ出して、膝から崩れ落ちた。
何で。何で俺がこんな目に。
自分が原因なのは分かっている。分かっているから余計に辛い。誰も責められない。自分のせいなのだから。
膝をついた衝撃で、とろりと赤髪の精液が更に流れ出した後孔に指を入れ、植え付けられた種を掻き出す。痛みも相俟ってさらに流れる涙と共にシャワーのお湯に流される白濁を見て、自分がもはや何をしているのか分からなくなった。
やっとのことで全て掻き出した頃には、もう泣く気力もなくなっていた。ぐったりとした身体は既に俺の言うことを聞かず、ふらりと壁に寄りかかる。シャワーの熱気でもわもわと立ち上る湯気が、俺の汚い体を必死に隠してくれているような錯覚に陥った。
こんな自分を助けてくれるような人など、もういない。
いくら、花咲や神沢先生でも。
「──……帰りたい」
ぽつりと呟いた声は、シャワーがバスルームの床を打つ音でかき消された。
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