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「藤原君、そこにいるんだね!」
そう叫ぶ声は、間違いようもない。俺が帰りたいと願った場所を作ってくれた、その人。
俺のせいで犯されかけて、そのくせ俺は罪悪感などと言い訳して一度も見舞いに行かなかったのに、そんな俺を探しにここまで来てくれた。
もう関わらないことだって出来たはずなのに。
「……っ!」
熱いものが込み上げて、気が付けば頬が濡れていた。嗚咽は極力抑えたつもりだが、花咲には聞こえたようで、また窓が叩かれる。
「藤原君、どうしたの? 大丈夫なの!?」
黙れ、と外で別の声が聞こえる。俺をここへ連れてきた生徒の声だ。しかし、花咲は注意を無視して更に言葉を続ける。
「早く帰ろう! また色んなお話しようよ! 藤原君!」
ドンドン、と窓を叩いていた音が、「うわっ!」と言う驚いたような声と共に止んだ。
「花咲!」
「藤原く、んん……っ!」
何かで口を塞がれたのか、途中から声が突然籠り、微かな呻き声しか聞こえなくなる。慌てて窓を開けようと、もう一度鍵に手をかける。先程と同じく中々鍵は開かなかったが、持てる力を全て込めれば、ガチン、と大きな音を立てて何とか鍵が開いた。
窓を開けて手で掴んだ鉄格子に顔を貼り付ける。
「何をしてんだ! 離せ!」
呻き声のした玄関のドアの方を見れば、花咲が後ろから羽交い締めにされ、口を手で塞がれたまま腹を殴られていた。生徒が腹に拳を入れる度、辛そうに目を瞑る花咲の身体はくの字に折れ曲がり、くぐもった呻き声が聞こえる。
「くそっ!」
この部屋の鉄格子は、どれだけ力を入れても微かに揺れることすらなく、びくともしない。それでも、花咲を助けるためにはここを出なければならない。ほんの少しでも可能性があるとしたら、この鉄格子を前のように外すことだけだ。
ふらつく身体に苛つきながら、全体重をかけて鉄格子に力を込める。その間にも、花咲の体に痣が増えていくばかり。
俺のせいで、もう花咲を傷つけたくない。
止めろ、止めてくれ。
『助けてえのか』
脳内に突如声が湧き上がった。考える間もなく、直感的に夢と同じ声だと気付く。
助けたい。誰でもいいから、早く花咲を助けてくれ。
全く動きそうにない鉄格子に焦る俺を余所に、生徒たちはぐったりとした花咲のズボンに手をかける。それが何を示しているかを瞬時に理解して──。
『ならお望み通り助けてやるよ』
俺の意志とは別の何かが俺の手を使って、鉄の格子を勢いよく壁から引っこ抜いた。
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