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 大きな破壊音の後、一変して辺りから音が消えた。鉄格子と共に無理矢理引き抜かれたボルトが、廊下を音もなくころころと転がっていく。 「え……──」  沈黙を破ったその呟きは誰の口から出たのかは分からない。しかし、何故出たのかは断言できる。外れるはずのない鉄格子が、素手で外されたからだ。  俺なら出られるだろうと踏んで入れられた前回の部屋とは訳が違う。誰も出られないはずの監獄で、罪人を閉じ込めるための鉄格子が外されたのだ。呆けたような声が出るのも無理はない。  素手で外した当人の俺でさえ、唖然とする出来事だった。いきなり途轍もない強い力が、内側から手に込められた。衝動とは、全く違う感覚。  今のは、何だ。  まるで知らない何かが体の中から俺を操ったような。 「……!」  そう考えた瞬間、ぞく、と背筋に悪寒が走り毛が逆立つ。その直後、俺の手は、持っていた鉄格子を花咲たちの方へと投げ捨てた。 「っ!?」 「っうわぁ!」  情けない声を上げながら、飛んでくる鉄格子を避けようと生徒たちが花咲から離れると同時に、自分の行動に驚いて息を呑んだ俺の身体は、窓から廊下に転がり出る。  殴られた影響かその場から動けず、ぎゅ、と目を瞑って身体を縮こまらせた花咲の目の前を通り、そのすぐ側に落ちた鉄格子が、ガッシャン! と金属特有の高い音を鳴らした。生徒たちと花咲を分断するような位置にある鉄格子を確認して、俺は今度こそ自分の意思で足を動かし、花咲へと駆け寄った。 「大丈夫か!?」 「だ、大丈夫……ありがと……」  半ば放心状態のままそう返す花咲の視線は、自分のすぐ横に落ちている鉄格子から離れることはない。少し震えているのは、もしこの鉄格子が自分に直撃していたら、と想像したからだろうか。申し訳なさを募らせる俺の脳内で、またあの声が響く。 『弟と弟のダチを好き勝手やってくれた輩には、お兄ちゃんがお仕置きしねえといけねえな?』  何を言ってるんだ。俺に話しかけてくるこの声の主は一体誰だ。  考えているうちに、続けて声は俺にこう告げた。 『体借りんぜ、聖』  訳が分からないまま俺の体は動いて、鉄格子を乗り越えて、自分が出せる本気の力よりも数倍強い力で、生徒の一人の横っ面を殴っていた。口の中が切れたのか、一発で伸びて倒れた生徒の口の端からたら、と血が流れるが、その赤を見てもいつも現れる本能は現れなかった。赤髪に犯されて欲を吐いたからなのか、それともこの得体の知れない物のせいなのか。 『ひゃっはっはっは! 無様に血流してやんの。馬鹿な奴らだな』  もう一人の生徒には顎下にアッパーを叩き込み、倒れ込んだその姿を見て、高笑いする脳内の声。その声がまるで自分が出しているような錯覚を抱き、自然と口が緩んで声が出た。 「……はは」 「藤原、君……?」  背中にかけられた花咲の声に、俺は我に返って慌てて花咲へと振り返る。花咲は怯えと心配が混じった複雑な表情で、俺へともう一度声をかけてくる。 「藤原君、だよね……?」  そうだ、と返事をしようとした俺の口は、しかしその言葉を発言することはなかった。本当に、俺は俺なのか。その疑問が、自分の中で急激に膨らんで、俺だと認める言葉を押し潰す。

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