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水野、という言葉を聞いて、自分を庇って手を負傷し、会長と二人、廊下に取り残された人物を思い出す。
「水野は無事だったか!?」
「大丈夫だよ。外傷は手の傷だけだったし、ちゃんと手当てされてたしね。ただ玩具で色々されてたみたいで、かなり窶 れてたけど……」
「手当てなんてされてたのか?」
「うん、包帯巻かれてたけど……?」
首を傾げる花咲の言葉に、引き離される直前の水野の姿を脳内に描いた。言われてみれば、赤髪の部屋や、その廊下で見た水野の手は白かったような記憶がある。だとすれば、俺が寝てから、赤髪の部屋で目を覚ますまでの間に手当てされたことになる。一体誰が──。
考えてみても、心当たりは全くなかった。これ以上うんうん唸っても、恐らく正解には辿り着けないと悟って、答えを出すのを諦めた。
「そうか……水野は今どこに?」
「おいだ……いや、部屋に送っていったよ」
にっこり笑顔で花咲が言う。何か不穏な言葉を言おうとした感じはあったが、素直に花咲に感謝した。
「ありがとな」
目玉焼きを頬張りながらそう言うと、花咲は「食べながら話さないの」と苦笑した。こんな会話も久々で、改めて自分の中で花咲の存在が大きくなっていることを実感する。
朝御飯をぺろりと平らげて、食器を流し台に持っていくために腰をあげると、座っている間に失念していた痛みが腰を襲い、呻き声をあげながらソファーへと逆戻りした。
「っつ……」
「ちょっ、大丈夫?」
「ちょっと、な……」
心配そうな声が向けられたが、ぎこちない笑顔で誤魔化した。
俺が赤髪に迫られて窓から落ちた日から、花咲は俺が危ない目に遭わないよう、赤髪に対してかなり敏感になっている。そんな花咲に、赤髪に犯された、なんて言えば、大騒ぎどころの話ではない。
「あっ、そっか、腰……ちょっと待ってね、湿布とかあるかなあ」
花咲は何かに気付いたような表情でソファーを離れ、共用のクローゼットを開けて、救急箱を取り出した。
本当に気が利くやつだ、と有り難く思ったのも束の間。ワンテンポ遅れて、花咲の反応がおかしかったことに気が付く。
監獄であったことは何も話していないはずなのに、まるで俺の腰が痛むことを知っていたような、そんな反応。
「……花咲」
「どしたの?」
救急箱を漁りながら声だけを俺に返す花咲の背中に、口内に溜まった生唾を食道へと流して、質問をぶつけた。
「俺が何で腰が痛いのか、知ってるのか」
「え? ……あっ」
ばっ、と花咲が俺の方を振り返る。やってしまった、という顔だ。
間違いない。相手まで知っているかは分からないが、俺が犯されたことを花咲は知っている。
「どこで知った、神弥が何か言ったのか?」
「いや、えっと……その……」
今度は花咲が誤魔化そうとしてか、言葉を濁した。
「教えてくれ。俺が意識を離したあとに何があった」
神弥が余計なことをべらべらと話した可能性もある。もしかしたら、一度監獄に入って精液で汚れたベッドや制服を見たのかもしれない。そもそも、俺がこの部屋にどうやって帰ってきたのかも不明だ。考えれば考えるほど、自分の意識がない間に事が進みすぎていて、急激に不安が膨張し、息が苦しくなった。
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