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 そういえば、と鈴木が、わざとらしくグーに握った手をぽん、と反対の手のひらに打ち付けた。 「お前らのクラス、何やんの?」 「は?」 「は? じゃねえよ、雉学祭!」 「ああ、ホストクラブ……もどき?」  確認のために花咲へ視線を送れば、「もどき、だね?」と花咲も疑問符を後ろにつけて返してくる。 「もどきって何だよ」 「いや……あれをホストクラブって言っていいのか……」 「ホストクラブ……ではないよね」  二人揃って苦い顔をしていれば、鈴木もつられてか苦笑いを溢した。長谷川は興味がないのか話に加わらずに歩いている。  「俺達は女装喫茶やるんだ!」  な、と鈴木が楽しそうに長谷川にふる。だが、長谷川は鈴木の言葉が聞こえなかったかのように、全く反応もせずにすたすたと歩き続けていた。  というか、女装喫茶って、考えることはみんな同じなのか。戸田だけかと思っていたが。 「俺も女装すんだけど、漣もすんだ、女装!」 「長谷川が?」  驚いて長谷川を見ると、流石に無視し続けるわけにはいかなかったらしく、嫌そうにはあ……、と溜め息を吐いていた。にしても、クールな長谷川が雉学祭の出し物のためとはいえ、女装とは。 「よく了承したな」 「この馬鹿が余計なこと言わなけりゃ俺はやらずに済んだんだ……!」  長谷川が、これでもかと殺意のこもった視線で鈴木を貫いた。しかし、鈴木はどこ吹く風だ。むしろ、楽しそうに俺たちに向かって満面の笑みを向けてくる。 「だっていつも眉寄せてるからキツく見られがちだけど、美人なんだぜコイツ!」 「男に美人とか言うな死ね単細胞」 「ちょ、漣、さすがに今のはひでえだろ!」  ギャーギャー言い始めた鈴木は放っておいて、美人と言われた長谷川を観察する。  初めて会ったときから思っていたが、確かに眉間の皺が取れればとても綺麗な顔立ちをしている。身体も程良く筋肉が付いているはずだが、服を着ると着痩せするタイプのようで、女装したとしてもあまり違和感はないだろう。 「……まさに理想像って感じか」 「藤原!?」  俺の呟きに、長谷川が聞いたことのない大声で反応する。俺の横で、花咲が長谷川を見つめながらうんうん、と頷いた。 「確かに漣君ってよく見ると美人さんだね」 「圭佑!」 「だろだろ! 漣って取っ付きにくくて友達少ねえし、俺としてはなんて勿体無いんだと思ってぁいだっ!」  頭を押さえてその場にしゃがみ込む鈴木の横で、青筋を浮かせて拳を握る長谷川の顔が、怒りの表情からぞっとするほどの冷笑に変わる。 「お前は本当に一回死んだ方がいいぞ?」 「ちょ、漣? 何その笑み、ちょっと、ぎゃああああ!」  長谷川にこめかみを拳で両側からぐりぐりと痛めつけられて、鈴木が叫び声をあげた。 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいーーー!!」 「自業自得だこの阿呆っ!」  そう言って、長谷川は最後にとどめを刺すように、鈴木の頭を思いっきり叩く。パシン! という小気味良い音が、疎らな廊下に響いた。散々長谷川に痛め付けられた鈴木は、こめかみと頭を押さえて涙目になりながら長谷川を睨む。 「っこの馬鹿漣! お前の為を思って俺は行動してんのに!」 「余計なお世話だ!」  俺は言い争う二人を見ながら、喧嘩するほど仲がいいという言葉を思い出していた。  なんだかんだ言って仲いいよな、こいつら。

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