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「ほんと仲良しだね」  俺の心を読んだのか、はたまた偶然なのか、隣で花咲が鈴木たちを眺めながら呟いた。こくり、と頷いて、興味本位で「あいつらで妄想はするのか?」と聞くと、花咲は苦笑しながら、「知り合ったばかりの頃はしてたけど、最近はご無沙汰かな」と答えた。  学校に近づくにつれ少しずつ増えていく人目を気にせず、言い争いを続ける二人は、完全に生徒たちの視線の的になっていた。隣にいる俺や花咲にもその視線は注がれ、喧騒に混じって俺の名前がちらほらと聞こえてくる。込み上げる吐き気を我慢しながら、俺たちは教室へと急いだ。  途中、Dクラスの教室の前で、少し遅れてついてきていた鈴木たちに「じゃあな」と声をかけたが、向こうは全く気付いていないようだった。長谷川は流石に気付くかと思っていたが、怒りで周りが見えなくなっているらしい。あの長谷川がここまで怒るとは、余程女装が嫌だったのだろう。  言い合う声を背後に感じながら、ドアが閉まっているにも拘らず、騒がしさが廊下へと流れ出ている自分達の教室の前に立つ。そのドアを開けた後のことを想像すると、床に釘で刺したように足が動かなくなった。 「藤原君……」  心配そうな花咲の声とともに、俺の左手に花咲の手が絡んできた。俺より少し小さな手は、小刻みに震えている。  そうだ。花咲だって怖いのだ。自分を襲った加害者が、この教室の中にいるのだから。暫くの間精神的に不安定になるほど、あの事件は花咲の心に深い傷を負わせている。  それでも、花咲はここまで来た。ならば、俺がとれる行動は──。 「……勇気を、分けてくれないか」 「うん、二人なら大丈夫だよ。大丈夫」  自分自身にも言い聞かせるように、花咲が言葉を紡ぐ。心のなかでその言葉を反芻し、深呼吸をして、花咲と手を繋いだまま教室のドアを開けた。  ドアの音に気付いてか、中に居たクラスメートたちが一斉に俺たちを見た瞬間、先程まで一面に音が溢れていた教室が、一気に静かになる。繋がれた花咲の手が、俺の手を握る力を強めた。まるで転入してきたときみたいな雰囲気だ、と、どこか冷静な頭で考えていると、ガタン、と椅子が倒れる音がした。 「っおかえり!」  泣きそうな笑顔を浮かべた戸田が、倒した椅子もそのままに、俺たちに駆け寄ってきて両腕を広げて俺たちを抱き止める。俺と花咲の間に顔を埋めて、「おかえり」と若干震えた声で繰り返す戸田。 「ただいま、静利君」 「……ただいま」  花咲と俺が続けてそう返せば、戸田は顔をあげてきらりと光る瞳を細め、へへへ、と笑う。そして、俺と花咲の頭に手を乗せて、ぽんぽん、と優しく二回髪に触れた。  戸田に促され、自分の席へと向かうと、絡み付いていた皆の視線が一つ一つ外れていく。無意識に詰めていた息を吐きながら、一週間ぶりの自席へと腰を下ろした。同じように俺の後ろの席へ座った花咲の手は、もう震えてはいなかった。  

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