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   全てを塗り潰してしまったかのような漆黒の世界。微かな物音すらないその世界で、唯一視覚を刺激する暗褐色に身を染めた少年らしき人物が、背を向けて立っていた。  少年の周りには、辛うじてそれぞれのシルエットが見える何かが、隙間のないくらいに積み重なっている。その一部は、まるで少年の身体に縋りつくように少年の足へと巻き付いていた。  少年は俯きながら、肩を小刻みに震わせる。恐怖を感じているのか、もしくは──泣いているのだろうか。無性にそれが気になり、俺の視界はその少年を段々と大きくしていった。  少年の全身が俺の視界の縦いっぱいに映った瞬間、少年は急に顔を上げてゆっくりとこちらを振り返った。  その顔は────── 「うああ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛ああ──────っ!!」 「聖ちゃん!?」  絶叫した。  周りの筋肉がぎちぎちと音を立てそうになるまで口を最大限に広げて、肺にある空気を全て吐き出しても止まらないくらいに。  肩を誰かに掴まれて激しく揺すられる。が、絶叫は止まらない。 「ああああ゛ああ゛あ゛あっ!!」 「聖ちゃん! どうしたの!?」 「あああ゛、ん──っ!」  突然口を塞がれる。それでも止まらない叫び声は、全てそれに吸い込まれて、周りに響かせる音を持たずに消えていった。息が切れ、目の前がぼやけ始めると同時に口を塞いでいたものが離れる。体内から失われた酸素が入ってきた空気によって急速に肺を満たされ、急稼働し出した臓器に驚いた身体が反射的に空気を吐き出そうと咳を繰り返した。  何が起こったのか分からない。荒い息のまま呆然とする俺の体が、温かいものに包まれる。 「大丈夫だよ聖ちゃん。深呼吸して、ほら、すー……はー……」  耳元で行われる呼吸を真似て深呼吸をする。それを何度か繰り返すうちに、だんだん呼吸が落ち着いてきた。 「っはぁ……はぁ………っ」 「聖ちゃん大丈夫だよ、大丈夫」 「だい……じょ、ぶ……」 「うん。ほら、温かいでしょ。安心して、大丈夫」 「う、そ……うそだ……、いやだ、こわ、こわい……っ」  恐怖心が急激に増して体がガタガタと震え出す。その身体の震えを無理矢理止めるように、ぎゅ、と締め付けられた。 「嘘じゃないよ。聖ちゃんは何が怖いの?」  耳元で囁く優しくて落ち着くような声。それに救われて、また幾分か楽になる。 「お、おれは、ちがっ、こわいの、はっ」 「ゆっくりでいいよ。ゆっくりね」 「も、いや、なりたくない……ッ!」 「なりたくない……? 何に?」  その質問には答えられなかった。思い出せない、思い出したくもない『あれ』。存在してはいけないもの。消してしまわなければいけないもの。  再び膨れ上がる負の感情に、目尻から溢れた涙がぼろぼろと頬を伝う。 「聖ちゃん……?」 「誰、か……殺して、っ殺せよ!」 「何言ってんの!? 聖ちゃん目ェ覚ましてよ……っ」  力の入らない俺の身体を抱きしめる力が、更に強くなった。 「ああ、っうあ、あああ……っ」  涙を垂れ流しながら言葉にならない呻き声を出す。  嫌だ、嫌だ、嫌だ──!

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