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雉学祭が始まって一時間。
「──何だこれ……」
ぽかんと開いた口から思わず出てしまった呟き。
その呟きが出てしまったのは、
「シズー、あーんしてほしいなぁ」
「おっけー! ほら、お口あけて?」
「リョーマぁ、このー天使の、愛? ドンペリで三本入れて」
「ありがとね。天使の愛、ドンペリで三本入りましたー!」
等という会話があちらこちらでなされているからである。
ちなみにドンペリは量の多さを表していて、中くらいの量。一番多いのはリシャールという名前だ。味は好きに選べるようになっていて、コーラやメロンソーダなどの炭酸飲料からオレンジジュースなどのジュース類、コーヒーや紅茶などまでかなりの数が用意されている。ただ、メニュー表にはそれぞれについている二つ名しか書かれておらず、味はホスト側から説明する形式だ。
そもそもドンペリやリシャールって酒の種類だし量目につけるのはおかしくないか、と一度口を出してみたが、やるからには酒の名前を、しかも頻繁にドンペリという名前を使いたい、と言った奴が多かったのだから仕方ない。なら二つ名をつける前に酒の名前をつけろと思うが、そこは譲れないらしい。
いや、それよりもだ。
何だこいつら。慣れすぎだろ。
会話だけを聞いていたら、完全にホストクラブのそれだ。いや、ホストクラブをコンセプトにしているから、間違ってはいないのだが。
こいつらがホストクラブで働いていたと言っても全く疑わないほど、客の扱いから話術から何から何まで皆がイメージするホストそのものだった。本当に高校生なのか、怪しくさえ思えてくる。
呆れと感心、そして寝不足による疲れから、俺は客が頼んだ、一番量の少ないカクテルサイズの『一夜の戯れ』──いや、コーラを手に持ったまま、ただただ溜息を吐き続ける。それを、左隣に座っている女性客が聞き取ったらしく、俺の顔をのぞき込んできた。
「セイ、大丈夫? しんどい?」
「……大丈夫です。ただの寝不足ですから」
セイというのは、戸田が考えた俺の名前だ。源氏名、と言うのだろうか。漢字を読み替えただけだが、様になっている名前だとは思う。
「せっかく綺麗な顔してるんだから、ちゃんと寝るんだよ?」
「はあ……」
どんな理論だ、と思いつつ、曖昧な返事をする。
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