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そんな俺に、女性客は「んもうー」と口を尖らせたあと、俺の方へ身を乗り出してきた。
「てかさ、セイのクラスってレベル高いよね!」
「だよねー! ちょっと怖かったけど来てよかった~!」
女性客のその意見に同調するように、俺の右隣にいるもう一人の女性客が答える。
「怖い?」
女性客たちのその単語に違和感を覚える。俺から見た限りでは、嬉々として来ているように見えるのだが。
思わず声に出してしまった呟きに、怖い、と言った女性客が、頬に手を当てて返事をした。
「あー、うん。やっぱり罪犯した人たちばっかりいる訳でしょ? いくら警備体制が厳重だとしても、ちょっと怖いよね」
うんうん、と頷くもう一人の女性客。
そうか。ここ、普通の学校じゃないんだったな。
万引きなどの軽犯罪から、性犯罪、果ては殺人まで犯した人間が集められている、罪人たちの巣窟。今こうして話している俺に至っては、数多の命を踏み潰してきた大罪人だ。
ある意味勇者なんだな、この人たち。
「それでも来るのは、やっぱり格好いい奴が目当てなんですか?」
「まあそれもあるけど、そこら辺の男よりも刺激的なの」
「え?」
「セイは分からなくてもいいのよ?」
意味ありげな台詞と共に、うふ、と微笑まれて、子供扱いされた俺は少し不機嫌になった。
「あ、怒らせちゃった?」
「でもその顔可愛い!」
「男に可愛いは止めてくださいよ……」
キャッキャッと盛り上がる女性客たちとは対照的に、俺はまたはあ、と無意識に溜息を吐いていた。
「ちなみにセイはなんで捕まっちゃったの?」
「それ気になるー!」
「ちょっと、近いですって……」
興味津々といった風に揃って顔を寄せてくる女性客たちを、顔の前に置いた手で押し留める。それでも離れない女性客たちに、視線を泳がせながら答えた。
「万引き、です」
「あー学生だとお金ないもんね」
納得したように左隣の女性客が頷くのを見て、内心で無意識に詰めていた息を吐く。余程の事でも起きない限り、殺人者だとばれることはないとは分かっているが、それでも最悪の事態をいつも想像してしまう。
「セイ! 指名!」
ちらりと時計を確認してそろそろ指名が外れる時間だと認識し、コップに半分以上残っていたコーラをぐいっと呷ると同時に、教室の入り口の方から俺の名前が呼ばれた。
全く物好きな奴が多い、と思いつつ、もー行っちゃうのー? と眉を下げる女性客たちに、すみませんと言って俺は入り口に向かう。
「セイです、ご指名ありがとうございます。貴重なお時間を頂けること、光栄に思います。良ければお名前を──」
戸田に叩き込まれた台詞を少しお辞儀しながら言って、名前を聞こうと顔を上げた。
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